動の真っただなかへ、われら、美濃国関の里よりのりこみ来たったわけでござる。その後、そこもととこうして起居をおなじうすることに相成ったのも、奇縁と申せば奇縁じゃが、これも水火の霊、すなわち祖孫六の手引きであろうと、わしは、ゆめおろそかには思いませぬ」
 老人がポツリと口をつぐむと……沈みゆく夜気が今さらのごとく身にしみる。

 かくして。
 謎《なぞ》の老士得印兼光は、夜泣きの刀の作者関孫六の子孫だったことがわかり、部下の、同じ火事装束の四人はその弟子、六尺ぢかい大男ぞろいの駕籠かきも、重い鉄槌《てっつい》をふるう平鍛冶のやからなればこそ、これも道理とうなずけて、弥生は、こころからなる信頼のほほえみを禁じ得なかったと同時に、斯道《しどう》に対する老人の熱意のまえには、さすがは名工孫六の末よと、おのずから頭のさがるのをおぼえるのだった。
 もう夜は五刻になんなんとして、あるかなしの夜映を受けて、庭に草の葉の光るのが見える。
 会話《ことば》がとぎれると、人家のないこの青山長者ヶ丸のあたりは、離れ小島のようなさびしさにとざされて、あぶらげ寺の悪僧たちであろう、子恋の森をへだてた田の畔《くろ》を、何か大ごえにどなりかわしてゆくのが聞こえる。
 犬が吠えて、そしてやんだ。
 春の宵は、人にものを思わせる。
 得印老人の物語が、感じやすい弥生のこころをさらって、遠く戦国のむかしにつれ返っているのだった。
 近くの闇黒に、弥生は見た――ような気がしたのである。
 古い絵のなかの人のようなよそおいをした刀鍛冶の孫六が、美濃の国、関の在所にあって専心雲竜の二刀を槌《つち》うつところを!
 ふいごが鳴る。火がうなる。赤熱《しゃくねつ》の鉄砂が蛍のように飛び散ると、荘厳《そうごん》神のごとき面《おも》もちの孫六が、延べ鉄《がね》を眼前にかざして刃筋をにらむ……。
 それは真に、たましいを削るような三昧不惑《さんまいふわく》の場面であった。
 と見るまに。
 その幻影は掻き消えて、そこに、弥生の眼には、またほかのまぼろしが浮かぶともなく描かれているのだった。
 死に近い孫六である。
 かれは、書いている。ほそ長い紙きれに、おどろくべき細字をもって、しきりに筆を走らせているのだが、その字の色はうす赤かった。血のように赤く、また汗のごとくに水っぽいのだ。
 それもそのはず!
 彼は、みずからの
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