。
事実、そっくりそのまま残っているのだ。
どこに!
水火一|対《つい》――いまは所を異にして!
……と語り終わった得印老人のことばに、
「え?」
思わず急《せ》きこんで闇黒のなかに乗り出したのは弥生。
「それでは、アノ、その関の孫六の水火の法が、いまだに世に残されておりますとな――」
「いかにも!」
見えはしないが老士、暗中に大きくうなずいたらしかった。
「いまわしがお話し申したとおり、孫六発案の大沸かし小沸かし、さては刃わたしの密法、ともに合符《がっぷ》の秘文となって現在この世に伝来しおること明白でござる」
「まあ! それほど大切な御文書どこにあるかは存じませねど、もはやお手に入れられましたでござりましょう」
と弥生は、瞬間のおどろきから立ちなおると、やはりすぐと地の女性に返るのだった。
「あッはッハッハ! いや……」
急に大きく笑い出した得印兼光は、突如、顔をつき出して低声《こごえ》になりながら、
「されば、その水火|秘文状《ひもんじょう》の所在でござるが」
「は。そのありかは……?」
「ただいまも申すとおり、合符《がっぷ》になっておる」
「合符?」
「さよう、割文《わりふみ》じゃ。一あって一の用をなさず、二にて初めて一の文言を綴る――つまり水の条《じょう》と火の件《くだ》りと二枚の紙に別れておるのじゃが、それがじゃ、紙は二枚になっておっても、文句は両方につづいている。すなわち、同時に二枚紙を継いで判読せんことには、そのうちいずれの一枚を手にしたとて、とうてい水火の鍛術《たんじゅつ》を満足に会得《えとく》するわけには参らぬ仕組みになっておる」
弥生は、しずかに首をひねった。
「……と申しますると?」
「おわかりにならぬかな。いや、泰平の世に生まれたお若い方、ことには女子……」
「アレ!」
「おお! ナニ、ははは、誰も立ち聞く者はござるまい……とにかく、御身の存じよらぬはもっともじゃが、戦国のころには何人も心得おった密書の書き方でのう、敵陣を横ぎって遠地に使者をつかわす場合になぞ、必ずこの筆式《ひっしき》を用いたもの。それは――」
といいかけて、得印老士は、指で畳に字を書き出したとみえる。声とともにかすかな擦音《さつおん》が弥生の耳へ伝わるのだった。
闇黒の部屋。
ふたりはいつしかそのまんなかに、ヒタと真近くむきあっていた。
明日《あす
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