《あ》せた緋《ひ》もうせんを敷いて一人の翁が端座している。
銀糸を束ねた白髪、飛瀑《ひばく》を見るごとき白髯、茶紋付《ちゃもんつき》に紺無地|甲斐絹《かいき》の袖なしを重ねて、色|光沢《つや》のいい長い顔をまっすぐに、両手を膝にきちんとすわっているところ、これで赤いちゃんちゃんこでも羽織れば、老いて愚に返った喜《き》の字の祝いのようで、まるで置き物かなんぞのように至極穏当な好々爺《こうこうや》としか見えない。
さて、何者にせよ、火事装束の四闘士と十人の荒らくれ男をピッタリおさえて、自ら先に乾坤の刀争裡《とうそうり》に馳駆するだけあって、その眼は鷲のような鋭光を放ち、固く結んだ口もと、肉《しし》おきの凝《こ》りしまった肩から腕の外見、一|瞥《べつ》してこの老士とうてい尋常の翁ではないことを語っている。
松の古木のような、さびきったその身辺に、夕ぐれとはいえ、何やらうそ寒いものが漂っているのを感得して、
「は、お呼びでございましたか」
と入って来た弥生は、思わずぶるッと小さく身ぶるいをしながら黙りこくっている老翁のまえへ、いざりよって座を占めた。
うす暗い。
となりは、ほとんどもう闇黒に近い室内。
そこに、神鏡のように茫《ぼう》ッと白く浮かんでいる老人の顔を見ると、弥生は、はじめて気がついたようにあたりを見まわした。
「あれ! まだお灯が入っておりませんでございましたか。どうも不調法を……ただいま持って参りまする」
と弥生、そこは天性で、もとを知られているこの老人の前へ出ると、小野塚伊織のはずの弥生、いつも本来の女性に立ち返って、じぶんでもふしぎなくらい自然に、言葉さえもただの弥生になるのだった。
四六時ちゅう、みずから意を配って男のように立ち振舞っているだけに、こうしてしばらくにしろ、その甲冑《かっちゅう》を脱ぎ捨てて女の自分に戻ることは、泣きたいような甘いこころを、つと弥生の胸底にわかさずにはおかない。
老士は口を開かない。
が、この弥生の心もちを伝え知ったかのように、剃刀《かみそり》のように冷やかだった眼色にやさしみが加わって、やがて、ぽつりといいきった声には不愛想ながらも、どこかに児に対するごとき一脈親愛の情がのぞき見られた。
「灯はいらぬ」
そして、珍しく、かすかな笑顔が小さく闇黒に揺れた。
「暗うても会話《はなし》は見えるでな」
「ホ
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