らしまいにして手前《てめい》はよくあと片づけしておけ」
ジュウンと火熱の鉄を水につっこんで、富五郎はまっくろになった手と顔を洗い、上り端《ばな》の六畳へ来てみると、ふだんから小さなおさよ婆さんがいっそう小さくしぼんで、眼をしょぼつかせながらすわっている。
そこで。
どっかりと長火鉢の向うにあぐらをかいた富五郎と、出された座布団をちょいと膝でおさえたおさよとが、無音のわびやら何やらにまたひとしきり挨拶があったのちに、
「おさよさん――」とあらたまって鍛冶富が口をきったのだった。
「どうだえ? 眼がさめなすったかい?」低声になって、「俺ア毎度田原町とも、それからうちのおしんともお前のうわさをしているよ。あんな縹緻《きりょう》のいい娘を持ってサ、おれならお絹物《かいこ》ぐるみの左団扇《ひだりうちわ》、なア、気楽に世を渡る算段をするのに、なんぼ男がよくっても、ああして働きのねえ若造にお艶坊をあずけて、それでお艶さんを埋《う》もらせるばかりか、はええはなしがお前さんまでその年をしてお屋敷奉公に肩を凝《こ》らせる、なんてまあ馬鹿げた仕打ちだと、しじゅうおしんとも語りあっておらアお前さんのために惜しんでいた。が、そこはマア若え女のほうがじきに熱くもなりゃあ冷めるのも早えや、お艶坊はお前、とっくの昔にスッパリ栄三郎さんと手を切ってヨ。今じゃア……」
いいかけて口をつぐんだ富五郎へおさよはいきなりすがりつくように乗り出したのだった。
「え? うすうすは聞いてもいましたが、それじゃアあの、お艶はすっかり栄三郎と別れて――して今はどこに何をして?」
「これおさよさん!」
眼を鈍く光らせて、鍛冶富は急によそよそしくなった。
「同じ江戸にいながら、母として娘の所在も生活《くらし》も知らねえとは、おさよさん! おめえ情けねえとは思わねえか」
さも慨然《がいぜん》と腕を組んだ富五郎のまえに、おさよは始めて欲得《よくとく》のない母の純心を拾い戻した気がして、ながらく忘れていたいとおしい涙が、お艶に対してこみあげるのを覚えた。
そのようすに、鍛冶富の片頬が、しめたッ! とばかりにかすかに笑みくずれる。
おさよは、しずかに鼻をかんだ。
「あ! そういえば、あの、おしんさんは?」
おさよは顔をあげてきいた。富五郎はうそぶく。
「なに、かかあかい、かかあ[#「かかあ」に傍点]は先刻湯へ行
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