のひのひびきに応じて土間ぐちに近く一本立っている桜の木から、雪のような白い花びらがヒラヒラ舞い落ちる。
 テンカアン、テンカアン! と一番槌の音。
 あさくさ三間町の鍛冶富、鍛冶屋富五郎の店さきである。
「サ、吉公、そこんところをもうすこし、裏をよく焼くんだぞ!」
 いそぎの請負仕事であるとみえて、きょうは富五郎、桜花をよそに弟子の吉公をむこうへまわして相変わらず口こごとだらけ。
「ふいご[#「ふいご」に傍点]が弱えんじゃねえかナ。あんまり赤がまわらねえじゃねえか。なんでえ、飯ばかり一人前食いやがってしっかりしろい!」
 ――と、それでも珍しく自分で仕事場に立って真っ黒になっているところへ――。
「はい。ごめんなさい、富五郎さん」
 という薹《とう》の立ちすぎた女の声が、藪《やぶ》から棒に聞こえて来たから、富五郎が槌の手を休めてヒョイと戸口の方を見やると、田原町の家主喜左衛門といっしょにいろいろ面倒を見てやった、奥州相馬の御浪人和田宗右衛門さまの後家おさよ婆さんが、妙にニヤニヤ笑ってのぞいているので、
「イヨウ!」
 と驚いた鍛冶富、
「やア、おさよさんじゃアねえか」
「どうも申しわけもございません。お世話になりっぱなしでまだその御恩返しの万分の一もできずに、しじゅうわがことにばかりかまけて御無沙汰つづきでおります。そのうえ、今日はまた折り入ってお願いがあって参りましたので」
「ウムウム。ああそうかい、そりゃまアよく来なすった。いま仕事の最中で挨拶もできねえから、さ、かまわずズンズン奥へあがんなさい……といったところで、知ってのとおりの手狭なあばら[#「あばら」に傍点]家だ。ずうっとはいりこむのはいいが、とたんに裏へ抜けちまうからナ、そこは何だ、いいかげんのところにとまって待っていておくんなさい、はははは、ナニ、すぐにこいつを仕上げて、ひさしぶりだ、いろいろ話も聞こうし報《し》らせてえこともある。さ、ま、遠慮しねえで――」
 いいところへ彼のお艶の母が舞いこんで来たものだ。こいつは一番、このおさよ婆さんにこのごろのお艶の始末をうちあけ、さよから先に納得《なっとく》させてお艶を手に入れてやろうと、さっそくに考えをきめた富五郎、まるで天からぼた[#「ぼた」に傍点]餅が降ってきたようなさわぎで、
「こらッ吉ッ! きょうはお客が見えたからこれで遊ばせてやる。いますこし励んだ
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