た、ふたりいたずらに鋩子《ぼうし》先に月の白光を割いて、ふたたび対立静止の状をつづけだした。
風死んで、露のしたたりが明日の晴天をしらせる。
凄寂《せいじゃく》たる深更の剣気……。
月輪軍之助以下北藩の援士は、抜きつらねた明刃をグルリと円列につくって、青眼の林、捲発《けんぱつ》する闘気をもって微動だにしない。
左膳は、軍之助とともに剣列の背後にあった。
誰ひとり声を出すものもない。はち切れそうな殺気に咽喉をつまらせて、一同ものをいう余裕などはなかったのだ。
ジイ――ッと薄光の底に停止するおびただしい刀身を、春の夜の月が白く照らしている。
突如!
その氷柱《つらら》のごとき一剣が銀鱗をひらめかして上下に走ったと見るや、またもや玄八、これでは際限がないと思ったものかやにわに刀を起こして大上段……真っ向から栄三郎の前額を指して振りおろした。
パチリッ! 柄近く受けとめた武蔵太郎、つづいてジャアッと刀がかたなを滑って、ほの青い火花が一瞬、うすやみの空《くう》をいろどった。
と!
この時まで受身の形だった栄三郎は、鼻を打つ鉄の香にひとしお強烈な戦志を呼びさまされたものか、はたしていきなり攻勢に出て、新刀を鍛えて東海にその人ありと聞こえた武蔵太郎安国晩年入神の一剣、突発して玄八を襲うが早いか、そのひるむところを、すかさず追うと見せて瞬転、横一文字に払った斬先に見事にかかって、刀を杖にたじろいだのも暫時《しばし》、モンドリうってその土に倒れたのは、月輪剣門の一士若松大太郎だった。
大太郎といえども選に当たって江戸くんだりへ生命のやりとりに出てくるくらいだから、もとより刀のたたない男ではなかったが、油の乗りはじめた栄三郎には、所詮《しょせん》、敵ではなかった。
腰の蝶番《ちょうつがい》へしたたか刃を打ちこまれた大太郎、全身の重みで土をたたいたのが、かれの最後だった。
と見るや!
気負いたった月輪の剣列、犇《ひし》ッ! とおめいて一栄三郎をなます[#「なます」に傍点]にせんものと、燐閃《りんせん》、乱れ飛んで栄三郎に包みかけたが、かいくぐった栄三郎、最寄《もよ》りの一人に※[#「てへん+堂」、第4水準2−13−41]《どう》ッ! 体あたりをくれると同時に、ただちに振り返って、おりから拝み撃ちに来ようとしていた山東平七郎へ!
「おウッ!」
片手の突き!
前へ
次へ
全379ページ中303ページ目
小説の先頭へ
文字数選び直し
林 不忘 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ
登録
ご利用方法
ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング