がこいの藁で法勝寺三郎の血を拭き終った武蔵太郎を、かれはしずかに正面に持しただけである――神変夢想の平青眼《ひらせいがん》。
と!
タ! タ! と二、三あし、履物を棄てて草を踏みつつ、栄三郎の前へ進み出た長剣の士、月輪の道場にあって三位を保《たも》つ轟玄八だ。
玄八。平潟《ひらかた》船《ふな》番士で、その剣筋、幅もあれば奥ゆきもゆたかに、年配は四十に手のとどく円熟練達の盛年。
ガッシリした体躯に心もち肩をおとして、濡れ手拭を絞るようにやんわり[#「やんわり」に傍点]と柄をささえ、
「参れッ! ウム!」
大喝、誘いの声だ。と、ともに、スウッ! 手もとをおろして突きにいくがごとく見せかけ、老巧|狷介《けんかい》の刀士、もろに足をあおって栄三郎の頭上へ!……飛刀、白弧をひいて舞いくだった瞬間、体を斜めに腰かわした栄三郎の剣、チャリーン! 青光一散、見事に流すが早いか、ただちにとって車返《くるまがえ》し武蔵太郎、血に渇して玄八の左肩を望んだ。
が、轟玄八、即時左手を放して柄尻《つかじり》で受ける。
そして!
刹那、妙機の片手なぐり、グウンと空にうなった燐閃《りんせん》が、備えのあいた栄三郎の脇胴へ来た。
竹刀ならばお胴一本取られただけですむかも知れない。しかしこれは真剣も真剣……見守る一同、秒刻ののちには上下半身を異にしている栄三郎を見ることと思った。
――にもかかわらず、ガッ! と音を発して玄八の刀をそらした栄三郎、すかさずつけ入ってヒタヒタと鍔《つば》を押している。
これは見物《みもの》!
といった色めきが、半月の列を渡った。
ガッキ! と咬《か》み合ったまま微動だにしない鍔と鍔。
諏訪栄三郎と轟玄八。
一同が、眼をそばだてて熟視するなかにしばらくは双方、伯仲《はくちゅう》の力をあつめて保《も》ち合いの形と見えたが――。
雲が出た。
月の影が、さまざまの綾を地上に織りなす。
やがて!
いかなる隙ありと見たのか、玄八、やにわに、
「ううむ」
一声! これが気合い、同時に、満身の筋力を刀手にこめて押しかかる――と思わせて、じつは逆に、スウッと張りを抜きながら数歩、引きこむようにさがろうとしたのは、いわずもがな、誘い入れの一手。
栄三郎もさる者、離れゆく玄八をあえて追おうとはしなかった。
不動。
で。
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