恰幅《かっぷく》、色黒――鍛冶富!……鍛冶屋富五郎である。
「おお!」
「アレ!」
これがいっしょの声だった。
客というのは鍛冶富――嫌なやつ! と思っても、お艶の夢八、とっさに立つわけにもゆかず、さりとてそのままはいる気にはなれず敷居のところでモジモジまごまごしていると、こっそり遊びに来て芸者を呼ぶとそれが昔のお艶だったので、より[#「より」に傍点]驚いたのは鍛冶富だ。
「イヤッ! お艶さんじゃアねえか。お前さん、どうしたえ? 喜左衛門どんも始終うわさをしていたよ。この土地から芸者に出ているなんておらアちっとも知らなかった。え? いつからだい? 栄三郎様とは別れたのかえ?……マずっとこっちへおはいんなさい。しばらくだったなア!」
「三間町さんでしたか。ほんとにマア御無沙汰申し上げております。お変りもなく――」
言いながらお艶は、なんとか口実をつけて帰らせてもらおう――こう考えたが、富五郎はもう溶けんばかりにでれりとなって、
「いや! そんな挨拶はぬきだ、ぬきだ! それよりお艶さん、きれいになったなあ……」
じいッとみつめる色ごのみな鍛冶富の視線にお艶はますます首肩のちぢむ思い――。
「軍《いくさ》にはまず兵糧が第一だて」
「さようさ。ここでしこたま詰めこんだのち出かければちょうど刻限もよかろう」
「なあに! 相手は優男に乞食ひとり、何ほどのことやある。これだけの人数をもって押しかけ参らばそれこそ一揉みに揉みつぶすは必定! さ、前祝いに一|献《こん》……」
「善哉《よいかな》善哉!」
「今宵こそは左膳どのも本懐を達して――」お艶はギョ! として思わず呼吸をのんだ。
最後の言葉が、動かないものとして彼女の耳をとらえたのである。
じつは、さっきから隣の部屋にいろんな声がしていたのだが、どこかの家中の士が流れこんできて駄々羅《だだら》あそびをしているのだろうと、お艶は、それよりも目前のおのが客鍛冶富に気をとられて、隣室の話し声にはたいして意を払わずにいたのだったが、はじめはヒソヒソ低声《こごえ》にささやき合っていたのが、だんだん高くなるにつれてお艶もいつしかそれとなく耳を傾けていると!
……相手はやさ[#「やさ」に傍点]男に乞食ひとり、というのが聞こえた。
さてはッ! といっそう聞き耳を立てたところへ、今宵こそは左膳どのも云々《うんぬん》――と誰かが言い
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