出したからこっちの部屋のお艶、うっかり叫び声をあげそうだったのを危うくおさえて、つと鍛冶富のまえへ膝を進めながらニッコリ笑顔をつくった。
 が、耳の注意だけはやはり隣室へ!
 富五郎は気がつかない。
 もとからお艶にぞっこん[#「ぞっこん」に傍点]まいって機会あらばと待ち構えていた彼、羽織衆夢八となってひとしお嬌美《きょうび》を増したお艶の前に、富五郎はもう有頂天になっているのだ。
「いや。人間一生は七転び八起きさ、そりゃア奥州浪人和田宗右衛門とおっしゃるりっぱなお武家《ぶけ》の娘御と生まれた身が、こうして芸者|風情《ふぜい》に――と思うとね、お前さんだっていろいろおもしろくないこともあろうけれど、サ、そこが辛抱だ。なあ、そうやってるうちにアまた思わねえいい芽もふこうってものだ。だがネ、お前さんが栄三郎さんに見限《みき》りをつけたのは大出来だったよ。おらあ他人事《ひとごと》たア思わねえ、いつも喜左衛門どん夫婦と話してるんだ。ねエ、お艶さんは白痴だ。あんな普外《なみはず》れた器量を持ちながらサ、こういっちゃアなんだが、男がいいばかりで能《のう》のねえ御次男坊なんかと逃げ隠れて、末はいってえどうする気だろう?……今のうちに眼がさめて別れちまえば、まだそこに身の立て方もあろうてもんだが――なんてネ、寄るとさわるとお前さんのうわさで持ちきりだったよ。が、まあ、わしのにらんだとおり、お前さんも根ッから馬鹿じゃアなかった。栄三郎と手をきって、こうして羽織を稼いでいるたア褒《ほ》めてもいいね。ははははは、はやるだろう?」
「ええ、……おかげ様で、まあボツボツねえ」
「結構だ。せいぜい稼いでお母に楽ウさせるんだナ。ときに、おふくろといえば、どうしたえ、その後は? 音信《たより》でもあるかね?」
「は。まだ――」
「本所のお屋敷に?」
「ええ」
 平気をよそおって富五郎とやりとりしながら、全身これ耳と化したお艶が、襖越《ふすまご》しに気をくばっていると隣室には乾雲を取り巻く同勢十五、六人集まっているようすで、何か声《こわ》だかに話し合って笑い興じている。
「しからば露地ぐちに見張りをつけて……」
 といっているのは丹下左膳の声らしいが、あとは小声に変わって聞こえなくなった。
 鳩首凝議《きゅうしゅぎょうぎ》――とみえて、にわかにヒッソリとした静けさ。
 突然!
「ウム!」
 と大きく
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