うだん》めかして迷惑らしい口ぶり、
「殊には、先生のお祝い事とあれば拙者にとってもよろこびのはず。承知いたした! 小豆をすこし、栄三郎、今宵は特別をもってりっぱに奢《おご》りましょうぞ」
 笑いながら、風流べに絵売りの扮装《つくり》のまま、栄三郎は小銭の袋を手にしておもての往来へ出ていった……同居している泰軒のために小豆を買いに。
 泰軒のために? ではない。
 今朝ほどお艶から、彼女が、まだ生まれ出ない栄三郎の子を感じていると聞かされた泰軒、こうしてないしょに、ただそれとなく赤の御飯を炊いて栄三郎に前祝いをさせる気なのであろう――。
 ガタピシと溝板を鳴らして、栄三郎の跫音が遠ざかってゆくと、泰軒居士、いたずららしい笑みとともにむっくり起きあがった。
「うむ! とうとう小豆を買いに参ったな。話せばどんなによろこぶかも知れぬが、今はまだ心からお艶どのを憎み恨んでいる最中、そのためかえって苦しみを増すこともあろうから、こりゃやっぱり、黙って、何事も知らせず祝わせてやるとしよう。どりゃ、そうと決まれば、こっちもそろそろ受持ちの飯炊きにとりかかろうかい」
 ひとりごちながら、火打ちを切って手近の行燈に灯を入れる。
 その黄暗い光に、ぼうッと照らし出された裏長屋の男世帯……。
 乱雑、殺風景を通りこして、じっさい世にいうとおりうじくらい生きていそうな無頓着《むとんぢゃく》をきめた散らかし方だ。
 お艶が家を出たあと、栄三郎がひとりで自炊していたところへ、相馬の旅から帰った泰軒がズルズルベッタリにいすわりこんだから、その無茶苦茶な朝夕、まことに思い半ばにすぎようというもの。
 紙屑、ぼろ布、箸茶碗、食べかけの皿などが足の踏み立て場もなく散らかり、摺鉢《すりばち》に箒が立っていたり、小丼《こどんぶり》に肌着がかぶせてあったり、そして、腐《す》えたような塵埃のにおいが柱から畳と部屋じゅうにしみわたって、男ふたりのものぐさいでたらめな生活ぶりをそのままに語っている。
 勝手もとで、不器用な手つきで米をとぎだした泰軒先生、思い出してはしきりに、
「ウム! めでたい! こりゃあめでたいぞ!」
 ひとりでさかんにめでたがりつつ、泰軒、ふとあがり口のべに絵木箱に、眼を留めて、
「オオ! きょうはだいぶ売れたようだな。ありがたい――」
 栄三郎が、小豆を買って来たらしい。露地に、あし音が近づ
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