《うぬ》みてえな野郎がいるから、どこへ行ってもお艶さんが苦労をするんだ。ハハハハハ――お! そりゃそうとお艶さん、この金だがね、こりゃア、言うまでもなくお前さんが身売りした代だからお前さんのものだけれど、縁あってわしが親元となっている以上、一時このままお預りしておきますよ。入要《いりよう》があったらいつでもそう言ってよこしなさい。大岡様のお眼がねに添うあっしだ、ちゃんとこのとおり、出羽様のお下《さ》げ金といっしょに胴巻きへ包んで――」と言うと、そこへ供《とも》の新助が口をはさんで、
「アアそうだ! そういえば、きょうここへまわる前に出羽様へうかがったんでしたね。あそこのお作事でお受け取んなすった小判三十両、あれは御隠居所のお手付けでございますか」
「何を言やがる! こんどの請負は二千三百両。近えうちに前金が千両さがる。それでなけア大工の足留め金を出すことができねえ」
「へえ? 豪勢な御普請ですねえ。じゃアあの三十両がなんのお金で!」
「あれは正月の手間の払い残りがあったのをくだすったんだ。ホラ見ろ、丸にワの字、松平出羽守様の極印《ごくいん》が打ってあらア」
と、その出羽守様のしるしをうった小判とお艶の身売り金とをいっしょに懐中《ふところ》にして、棟梁伊兵衛はお艶に別れを告げ、新助に提灯を持たせて銀町へ帰っていったのだが。
しょんぼりと一人、まつ川の戸をくぐって部屋へ通ったお艶。
変わった姿にともすればもよおす涙が、今夜はひとしお過ぎ来し方ゆく末などへ走って、元相馬藩士和田宗右衛門というれっきとした武士の娘がなんの因果か芸者などに身をおとして! と耐らぬ自嘲の念が沸き起こる一方、考えてみれば、ついこの間まで水茶屋をかせいでいた自分、当り矢のお艶が夢八になったところで大した変りもないではないか。
ぼうっと眼で追うなつかしい栄三郎さまの面影《おもかげ》。
そして、鈴川様にいる母さよのこと。
くずれるように坐ったお艶が、夜さむに気がついて、肩をつぼめながら、もうあの伊兵衛さんと新どんは永代を渡ったころだろう――と思うともなくこころに浮かべていたやさき!
ドンドンドン! 割れんばかりに表戸をたたいて、
「まつ川さん! お艶さん! タタ大変だアッ! 棟梁が……」
狂気のような新助の声だ!
新助は、白痴のように取り乱して口もきけなかった。
ブルブルと口唇《くち
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