、何にまれ容易に驚かず、たやすく発動したことのない月輪軍之助、普段のぼうっとした性に似げなく、覚悟に決然と口を結んで左膳を見返す。
着府と同時に、ほとんど挨拶がわりに左膳から剣渦《けんか》の一伍一什《いちぶしじゅう》を聞かされて、栄三郎方および火事装束と刃を合わす期をたのしみに待っていた月輪門下の同志は、日ならずしてここに早くも怪しき小人のために二友を失い、かすかな不安のうちにも殺気あらたにみなぎるものあって、左膳、源十郎、軍之助の鼎座《ていざ》を中心に、それからただちに深夜の離室に密議の刻が移っていった。
その結果。
乾雲を囮《おとり》に坤竜をひきよせるいかなる秘策が生じたことか?……は第二として。
ここでは、鈴川源十郎である。
熟議の座にあって、終始黙々と腕をこまぬいていたかれ源十郎は、はたして外見どおりに自余の者とともに乾坤一致の計に脳髄を絞っていたであろうか――というに。
大いに然らず!
いまの先、お艶の儀はキッパリと相忘れ申した! などとりっぱな口をたたいたその舌の根も乾かぬうちに、もう彼の全部を支配しているのは、かつて心を離れたことのないわだかまり、あの、過日おさよに約束したまままだ渡してない五十両……お艶を栄三郎から奪うための手切れ金の才覚だった。
で、しばらくは交際に、神妙に首をひねると見せかけていた源十郎が、今宵の手裏剣にちと心当りがござるから――とうまいことを言って、とめるのもきかずに化物屋敷の自宅を出てゆくと、あとには離室の一同、寒燈《かんとう》のもとになおも議を凝《こ》らしていたが、ただひとり暗い夜道を思案にくれてあてどもなく辿る源十郎の肩には、三|更《こう》の露のほかに苦しい金策の荷が、背も折れんばかりに重かったのだった。
その夜の闇黒は、源十郎のこころだった。
真っ黒に塗りつぶされたような入江町の往来を、ふところ手に雪駄《せった》履きの源十郎が、形だけは八丁堀めかして、屈託げに顎をうずめてブラリ、ブラリ――さて、こうして人中を逃れて考えをまとめるつもりで出は出てきたものの、この夜更けにどこへいこうの当てがあってのことでもなければ、また何人のところへ持ちこんだところで、もう源十郎にはオイソレと金のはなしに乗ってくれるものもないのだった。
で、思案投げ首。
五十両……五十両と心中にうめきながら、河岸《かし》にそって歩い
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