。
が!
ここぞと思うあたりへ行ってみると、無!
湿《しめ》っぽい夜気が重く地を圧しているばかりで、庭のどこにも、さきほど仙之助が見かけたという子供に似た人影なぞはいっさいないのだ。
はてナ? と抜刀をさげた一同が、きょろきょろあたりを見まわしていると、近くにあたって、
「うふ、ふふふ……」
と陰にこもる含みわらい。
「おぬし、いま笑ったか」
「いンや。笑ったのは貴公だろう?」
「違う。誰だ、笑ったのは?」
がやがやと問いあっているところへ!
二間と離れない草むらから猿のように黒い物がとび出したかと思うと、長い手が一振するが早いか燐光ふたたび流星のごとく閃尾《せんび》を引いて、またしても飛剣、真ッ先に立った夏目久馬の脇腹をえぐって地にのけぞらした。
「ふはははは!」
笑いを残して、小さな影はすっ飛んでゆく。
「曲者《くせもの》ッ!」
と面々、それッとばかりに追おうとするや、室内にとどまっていた左膳、源十郎、軍之助の三人が、口ぐちに叫んで皆を呼びあげた。
そして、何事か――にわかに離庵《はなれ》全体の雨戸をおろさせ、丹下左膳が、最初に飛来して軍之助の酒盃を割った小剣を畳から抜き取るのを見ると、五寸あまりの鋭利な小柄で、手もとに一ぽんの小縒《こよ》りが結びつけてある。
みなの目が好奇に光るまえで、左膳、紙縒《より》を戻して大声に読みあげた。
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御身ら二十名は順次にわが手裏剣の的《まと》也。
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何者からか殺剣とともに送られた威嚇《いかく》の言!
「フン! きいたふうな真似をしやがる!」
と吐き出すように苦笑した左膳、不意におちた沈黙の底で、なみいる頭数をかぞえ出したが、いま殺《や》られた二人を加えて月輪組の十七名に、源十郎、与吉で十九、それにじぶんでちょうど二十と最後におのれを指さしたころ。
猿をつれた猿まわしのような弥生と豆太郎が、遠く鈴川の屋敷をあとに走っていた。
火事装束一味のまわし者!
これが、離庵《はなれ》の一同のあたまへ、期せずしてピンと来た考えだった。
が、それにしてもあの、小児とも野猿ともつかない怪人物の手裏剣|業《わざ》には、さすが独剣至妙の刃鬼丹下左膳の膚にさえ粟《あわ》を生ぜしむるにたるものがあった。
しかし、世にいう手裏剣《しゅりけん》なる刀技は。
手裏剣神妙剣など
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