て味をいうわい」
「いや、それは物の比喩《たとえ》で、わるくとって気にしては困る」
「ナニ、気にするどころか、俺たちのあいだはそんな他人行儀のものじゃあねえ、あれア心からありがてえと思っているのだ。なあ月輪氏、そうではないか」
ときかれて、与吉その他とともに泰軒の噂《うわさ》に夢中になっていた月輪軍之助、不意の質問にあわてて、
「ささささようでござるとも。い、いかにも丹下殿の仰せらるるとおり――」
といつになくどもって答えると、その口つきに左膳は、主君大膳亮を思い出したらしく、
「……さぞお待ち兼ねのことであろう、いや、なんかと手間どり申しわけござらぬ」
珍しく四角ばった言葉になりながら、
「アア乾雲が夜泣きをする! 竜を呼んで泣くのだ。ソレソレこの声が御一同には聞こえぬかな」
と左手に陣太刀を撫《ぶ》して、血ののぼった一眼を満座のうえに走らせたとき。
大御番頭だった父宇右衛門のころは、登城をしたから馬も馬丁も抱えていたけれど、その時分すら下女は二人しか使わなかったのに、小普請《こぶしん》におちた当代の源十郎がやはりふたりおいているとあっては、始終まわってくる小普請支配取締りのおもて面倒だとあって、母の格とはいえ、こうなるとどうしてもおさよが女中なみに立ち働かざるを得ない。そのおさよ婆さんが、薬罐《やかん》に酒の燗《かん》をして運んで来た。
乾雲を盗み出したのはこの婆だ! と思っても、左膳は源十郎の手前もう何も言わずにいる。
酒と見てわっと歓声をあげる一同を制し、左膳が、
「軍議! かの火事装束五人組との対策もあるで、この談合すましてから、また一杯やるとしよう」
こう言い終わったとたん!
土生仙之助がサッ! と顔色を変えたかと思うと、突如庭奥の闇黒《やみ》[#「闇黒《やみ》」は底本では「闇|黒《やみ》」]から銀矢一閃、皎刃《こうじん》、生《せい》あるごとく飛来して月輪軍之助の胸部へ……!
この酒盛りの最中に、ふしぎ! 空を裂いて庭から躍りこんだ一ちょうの短剣、あっというまに灯に流れて、グサッ! と月輪軍之助の胸板に突っ立った……と見えた瞬間!
ばちイん! と音して見事にくだけ散ったのは、ちょうど軍之助が口へ運ぼうとしていた土器《かわらけ》の大盃だった。
飛剣は、そのさかずきを微塵に割って、軍之助の上身に酒を浴びせ、余勢、うすい着物の肩をかす
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