坤二刀がそれぞれ所有主《もちぬし》の手に入れちがいになった雪の夜、左膳は、深夜の法恩寺橋下に栄三郎を見失ったのち、またまたその足で化物屋敷に舞いもどって、あるじの源十郎と対談数刻、ここに始めて訴人したのは源十郎でなく、また乾雲を掘り出したのもおさよ一個の仕事――自分はなんら関知しないという源十郎の弁舌に、強いだけに単純な左膳、今までのことはすっかり己が誤解であったと源十郎に対する心もちもなおり、以前のとおり庭内の離庵《はなれ》に起き臥しすることになったが。
自ら訴えておいて後から左膳を救い出し、それを恩に、一晩にしろ左膳とともに住んで、かたくなな愛欲を満たしたかの大姐御櫛まきのお藤、目下は、江戸おかまえの身にお上の眼がはげしく光っているので、しようことなしに例のあなぐら、暗い地下の隠れ部屋に左膳の思い出を抱いて独り沈湎《ちんめん》しているものの、かのお藤、一度左膳を得て、はたしてこのままに黙《もく》するであろうか。
一方左膳と源十郎は。
ともにそこはかとなく吹きまくる御用風が身にしみて、いつ十手捕縄が飛んでくるかも知れない不安から、再び互いに固い助力を誓いかわし、源十郎は旧《もと》どおりに左膳をその邸内に潜伏させることになったのだけれど。
いま。
隻眼隻腕の丹下左膳、右頬の刀痕を皮肉な笑みにゆがめて――雲竜二剣のために、お藤はもとより、最初乾雲丸といっしょにわが手に入れたはずの弥生への横恋慕をも、スッパリと断ちきるという。
それに応じて源十郎は。
しからば自分はお艶を思いきって、ともどもに夜泣きの刀へ全力を傾注しよう! こう力づよく言下にいい放ったものの。
言葉はことば。
胸底《こころ》はこころ。
お藤のことはとにかく、左膳、よく弥生を諦め、また源十郎がお艶を忘れ得るであろうか……?
この相互の疑惑にとっさに打たれた両人、思わず相手を見定めんと、鋭い眼光をはたとカチ合わせた時に、源十郎は左膳の独眼のなかに弥生を、左膳は、源十郎の顔のうえにハッキリとお艶をみとめたが、上をいって急ににっこりした源十郎、
「いや、今までのところはわしがあやまる。重々《じゅうじゅう》悪かった――お艶にのみ気を取られて、貴公はさぞかし腑《ふ》甲斐ないやつと思ったことであろうが、今後は源十郎、貴公の右腕ともなって……」
「あははは、左腕のおれに右腕とは、源十、なかなかもっ
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