のめ」
「うむ。めでたいのう。このとおり飲んでおる」
 源十郎、いささか迷惑げな生返辞《なまへんじ》。
 にもかかわらず、左膳は、もうまわり兼ねる舌でどなるように、
「ナア与力の鈴川、オッと! 法恩寺の殿様、おれも弥生てえ娘のことはスッパリ思いきって、これからは夜泣きの刀の件にだけ精根をうちこむつもりだから、貴公も友達甲斐にお艶をあきらめて、終りまで俺に力をかしてくれヨ。今まで途中で俺と貴公とが変に仲たがいになったのも、みなあのお藤の離間策であった。じゃによっておれもこんどこそはお藤を捨てる。いやもう棄てたのだ。この片輪もの、なんで浮世の女に用があろう! ははは、万事わかった、わかった! だからだ、な、源十郎、貴様も女を二の次にして刀に腕貸ししてくれるだろうな?」
「言うまでもない! 貴様がお藤のみならず弥生まで忘れると申すなら、源十郎も武士、りっぱにお艶への心を断って、およばずながら、雲竜二刀の剣争に助力いたすであろう……」
「その一言、千万の味方を得たよりこころ強うござる」
 と月輪軍之助がここへ口をはさんで、
「ところで、かの泰軒とやら申す乞食でござるが――」
 こうして、着く早々何度となく蒸し返された蒲生泰軒のうわさ……随所随所に出没して悩まされた血筆帳の話がまたも出てくると、
「どうも皆々様のまえですが、あのこじき野郎と来ちゃあ金魚の乾物《ひもの》で……」
 与吉がしたり顔に膝をすすめる。
「金魚の乾物とはなんだ?」
 誰かがきいた。
「へえ。煮ても焼いても食えませんでございます」
 これで、ドッと嵐のような哄笑が一座をゆるがせたが、そのなかで、笑いもしない源十郎と左膳。互いに探るようなすばやい視線がちらと合って、すぐ外《そ》れた。
 恋する丹下左膳のこころが弥生に向いている一事と、また取持ちを約した鈴川の殿様に違約された恨みとから、さまざまに智恵を弄《ろう》して左膳源十郎|間《かん》に水を差そうとした櫛まきお藤の奸策。
 そのために一時は、左膳と源十郎そりが合わず、左膳は、源十郎に報復心を抱いて本所の家を出てお藤の隠れ家に彼女との靡爛《びらん》した一夜を送ったのだが、もとよりこの恋、左膳よりもお藤からはじまったことなので、左膳としては一度お藤を知りつくしたうえは、彼女に対してなんらの興味をつなぎ得なかったことはいたし方ない。
 と、して……。
 かの、乾
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