へ、二、三日まえにつづみの与吉が奥州中村相馬藩から月輪軍之助以下十七名の剣援隊を案内して到着したので、それからというもの、血戦のさいさきを祝い、一同、深酒をあおって、泥のような酔いぶり虹のごとき気焔に昼夜の別なく、今宵も、さっきから左膳の離室に酒宴がはずんでわきかえるような物音、人声……。
 その最中に、仙之助はちょっと厠《かわや》へ立ったのだった。
 竹の濡れ縁づたいに用をすまして、その帰りだった。
 一枚しめ残した雨戸のあいだから手洗《ちょうず》をつかいながら、何気なく向うの繁みを見ると、風もないのに縞笹《しまざさ》の葉が揺れ動いて、そこにむっくりと起ちあがった黒い影があった。
 子供!――とも見れば見られる、それに、長い両腕をだらりと地にさげて、背中を丸く前かがみに立ったところ、気のせいか、仙之助には猿のようにも思えて、かれはわれにもなく驚愕の声を放つところだった。
 が、さてはおのれ妖怪変化《ようかいへんげ》のたぐい! と仙之助がひそかに気負いこんだ時、その小さな人影はけむりのように消え失せてあとかたもなかった。
 ふしぎなこともあるものだと仙之助は首をかしげたが、酒の席へそんな話を持ち出したところで一笑に付せられるばかり、かえって自分が臆病なように聞こえるだけだと、彼は座へ戻ったのちも、この庭前に見かけた奇怪な影法師について何一つ言わなかった。
 酒気と煙草のけむりでむせかえりそうな部屋に。
 着いてまもなくまだ客分扱いされている月輪軍之助、各務《かがみ》房之丞、山東平七郎、轟《とどろき》玄八、岡崎兵衛、藤堂粂三郎、山内外記、夏目久馬等全十七人の相馬の剣士を上座にすえて、手柄顔のつづみの与吉、それに主人役の鈴川源十郎、食客丹下左膳などがギッシリつまって、その間、飯あり肴ありお菜あり、まるでちらし寿司を見るような色とりどりの賑かさである。
 そして、酒。
 骨ばった真赤な顔が、やぶれ行燈の灯にたぎるがごとく映えかがやいて、なるほど、化物やしきの名にそむかない。それは倨傲《きょごう》無頼な夜の一場面であった。
「こら源十! いやさ源的! やい鈴源、源の字……なんとか言えい! ウははははは」
 援団来着して上々機嫌の剣怪左膳、乾雲丸を引きつけて源十郎に眼を据えながら左手に杯をつきつける。
「のめエ! 乾坤ところを一にする勝軍《かちいくさ》の門出だ。飲めといったら
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