って雨のなかを瓦町の露地を離れて一人トボトボ濡れそぼれてゆくと――。
夜来の雨に水量ました神田川の流れ。
どどどウッ! と、岸の石垣を洗って砕ける暁闇の水面。
浅草橋の中ほどに歩みをとどめて何心なく欄干に凭《よ》って下をのぞいた弥生であった。
明けやらぬ空。
まだ眠りからさめぬ大江戸の朝は、うらかなしい氷雨《ひさめ》が骨に染みて寒かった。
魔がさす。
……とでも言おうか、こういうとき、嘆きをもつ人のたましいにふと死の影が投げられるものだ。
橋のうえの弥生に、眼に見えぬ黒い翼の死神《しにがみ》が寄り添った。
かれは弥生の耳へ誘いの言葉をささやく。
雨滴のひびき、河の水音を、弥生は、死の甘美をうたう声と聞いたのだった。
死神はまた弥生に、眼下の水底を指さし示す。
そこに弥生は、渦をまく濁流のかわりに百花繚乱たる常春《とこはる》の楽土を見たのだった。
死を思う心の軽さ――それは同時に即決をしいてやまない。
きっとあげた弥生の顔を、雨がたたいた。が、彼女はもう泣いていなかった。かすかに開かれた弥生の口から、亡父と栄三郎の名が吐息のごとく洩れ出た……と思うと、履物《はきもの》をぬぐ。チラとあたりを見まわす。手を合わす――。
「お父さま、弥生もおそばへ参ります!」
と一言! 死神の暗翼《あんよく》に抱かれた弥生が、あわやらんかんから身を躍らそうとしたとき! 人生にあっては、百般の偶然事ことごとくこれ必然である。
ことの起こるや、起こるべきいわれがあって起こる……この場合がちょうどそれだったと言ってよかろう。
ときしもあれ、棒鼻をそろえて、突風のごとく橋上を疾駆し去った五梃の山駕籠があった。
筋骨たくましい六尺近いかご舁《か》きが十人、ガッシと腰をおとして足並みゆたかに、踊りのように息杖《いきづえ》をふるって、あっというまにあさくさばしを渡り過ぎたのだが!
あとを見ると弥生の姿がない!
さてはついに飛びおりて神田川の藻屑《もくず》と消えたか!
と言うに。
危い弥生をみとめて、走りざまに陸尺《ろくしゃく》のひとりが片手に掻《か》きこみ、むりやりに駕籠の一つへでも押しこんだものであろう。
弥生はすでに気を失っていたが、それは真に間髪を入れない早わざであった。
その証拠には。
こうしてその朝、あの本所鈴川方の斬りこみから引きあげて来た五
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