ょうの祭りを当てこみにこの長者ヶ丸に小屋を張って銭をあつめているところへ、見物中の若侍が木戸へかかり、ちょっとはなしがあるとここへ呼び出されたのだった。
 何を思いついてこんな変わった太夫と膝を組んで語る気になったものか、とにかく弥生は、演技を終えて汗を拭きながら出て来た劉の豆太郎を見て、さては己がにらんだとおりであったかと微笑を禁じ得なかった。
 毛縫いを脱して今眼のまえにしゃがんでいる豆太郎は、舞台の劉さんとは全く別人のようで、はじめから弥生が看てとったごとく日本人の無頼漢だったからだ。
 三尺あまりの身体に状箱を縛りつけたような身躯《からだ》[#「身躯」は底本では「身驅」]、小さな手足にくらべて莫迦《ばか》にあくどい大きな顔……。
 しかし! かれ豆太郎に一梃の小刀を与えよ!
 空|翅《か》ける鳥もたちまち地におち岩間を走る疾魚も須臾《しゅゆ》にして水面に腹を覆すであろう。
 その豆太郎が、ふんべつ臭く小さな腕を組み、凝然と耳をすましていると。
 あるいは依頼《いらい》懇願《こんがん》するがごとく、あるいは諄々《じゅんじゅん》として説くように、しきりに何かを明かしている弥生。
 とんだ贋物《いかもの》の豆太郎と、小野塚伊織こと男装の弥生と。
 その間、どんな話題がいかに展開していったことか――。
 否《いや》、それよりもこの弥生が、突然小野塚伊織なる若侍の扮装《いでたち》で今日この子恋の森へ現れるにいたるまでに、そもどのような経路が伏在しているのか?
 ここでいささか振り返ってその後の弥生をたずねるに。
 ……それは、彼女が櫛まきお藤につれられて瓦町の栄三郎方を訪れ、お艶とともに一夜を雨のような涙に明かし、そして戸外には、両女の涙に似た雨が音もなく煙っていたかの思い出の明け方だった。
 思い出のあけぼの?
 そうだ。あの日を最後に、女としての弥生は、成らぬ哀恋《あいれん》の悶《もだ》えと悟りに、死にかわりにそこに、凄艶《せいえん》な一美丈夫小野塚伊織があらたに生まれ出たのである。
 その生みの悩みは?
 思い出はなおもつづく――。
 恋は、強い者を弱くし、弱いものを強くする。
 あの小雨の夜から、弱いお艶が急に強いこころに変わって栄三郎への愛想づかしを見せだしたように、つよい弥生は、にわかによわい処女に立ち返って、悲恋の情に打ちのめされた彼女、傘《かさ》を断わ
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