作った衣裳《いしょう》冠《かんむり》の行司木村なにがし、頓狂声の呼出しが蒼空《あおぞら》へ向かって黄色い咽喉を張りあげると、大凸山と天竜川の取り組み。それへ教学院の荒法師や近所の仲間が飛び入りをして、割れるような拍手とわらいが渦をまく。
 片隅には、二十七、八のきれいな女が、巫女《みこ》のようないでたちで何やらしきりに人を集めているので、その口上を聞けば、
「これなるは、安房《あわ》の国は鋸《のこぎり》山に年ひさしく棲みなして作物を害し人畜をおびやかしたる大蛇《おろち》。またこれなる蟇《がま》は、江戸より東南、海路行程数十里、伊豆の出島十国峠の産にして……長虫は帯右衛門と名づけ、がまは岩太夫と申しまする。東西東西! まアずは帯右衛門に岩太夫、咬み合いの場より始まアリさようウッ!」
 と、見ると、いかにもこれが安房帯右衛門殿であろう、一匹の痩せこけた青大将が、白い女の頸に襟巻のようにグルリと一まき巻きついて、あまった鎌首を見物のほうへもたげ、眠そうな眼をドンヨリさせている。
 女の足もとには、あまり大きからざる蟇《がま》の岩太夫、これは縄でしばられていて、つまらなそうにゴソゴソ這い出そうとするたびに、ぐいと引き戻される。
 やがて女が、頸の蛇をとって地面へおろすと、帯右衛門も岩太夫もそこは稼業だけあって心得たもので、暫時《しばし》にらみあいの態よろしくののち、いきなり帯右衛門が岩太夫に巻きついて締めつけて見せる。この時岩太夫すこしも騒がず口をあけてガアガアと音を発したが、たぶん、
「オオ兄イ、どうせ八百長だ、やんわり頼むぜ」
 ぐらいのところであろう。いっこうおもしろくないので、立合いの衆は肝腎《かんじん》の蛇と蟇の喧嘩よりも、太夫元の美しい女をじろじろ見つめているのだが、この女、いずれ後から怪《け》しからぬ薬でも取り出して売りつけようの魂胆と見える。
 むこうでは南蛮《なんばん》姿絵の覗《のぞ》き眼鏡が子供を寄せ、こっちでは鐘の音のあわれに勧善懲悪地獄極楽のカラクリ人形。
 おででこ芝居合抜き。
 わあッと人浪が崩れ立ったと見れば、へべれけに酔っぱらった何家かの折助《おりすけ》が四、五人づれ、女をみかけしだいにふざけ散らして来るのだった。
 その群集におされて、逃げるともなく小走りに、堂わきのあき地へ駆けこんだ若侍[#「若侍」は底本では「若待」]ひとり。
 月代《さ
前へ 次へ
全379ページ中248ページ目


小説の先頭へ
文字数選び直し
林 不忘 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ 登録 ご利用方法 ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング