た。
夜ならば火花閃々。
ひるだからきなくさい鉄の香がいたずらに流れて、あうんの声、飛び違える土けむり、玉散る汗、地に滑る血しお……それらが混じて一大殺剣の気が、一刻あまりも山腹にもつれあがっていた。
はじめのうちつづみの与吉は、小高い斜面の切り株に腰をかけて、たかみの見物と洒落《しゃれ》ていたがだんだんのんきにかまえていられなくなって、そこらにある石でも枯れ枝でも手あたりしだいに泰軒を望んで投げつけてみたけれど、単に混戦の度を増して味方に迷惑なばかり。
やがて。
こうなってみると、せまくて足場のわるいのが、何よりも多勢《たぜい》の側にとって不利なので、存分に動きのとれる峠下の広野へ泰軒をひきだし、また自分たちも一歩でも江戸に近よろうと、軍之助の指揮のもとに、一同、突如刀を納めてバラバラバラッ! と雪崩《なだれ》をうって江戸の方角へ駈けおりてゆく。
なむさん! 遅れては大変! と与の公もころがるようにつづいたが、
追おうともしない泰軒。
ニッとほくそ笑んで、懐中《ふところ》から巻き紙を切って、綴《と》じた手製の帳面を取り出したかと思うと、ちびた筆の穂先を噛んでそこらを見まわした。
まぐろのようにころがっている屍骸《しがい》がふたつ。
それに、最初|峡《たに》へ斬りおとした秋穂左馬之介を加えて、きょう仕留めた獲物はつごう三名。
泰軒先生、死人の血を筆へ塗って、三と帳づらへ書き入れた。
中村を進発のとき、軍之助を筆頭に各務房之丞、山東平七郎、轟玄八ほか二十七人、〆めて三十一名だった相馬月輪組は、木戸の峠の剣闘に秋穂左馬之介等三人を失って二十八人、それでも与吉を案内に水戸街道の宿々に泊りを重ねて、きょうの夕刻、こうしてたどり着いたのが助川の旅籠《はたご》鰯屋《いわしや》の門口だ。
木戸以来、泰軒の消息はばったりと途絶えて、いくら振り返っても影も形も見えないから、月輪の一同、安堵《あんど》と失望をごっちゃにした妙なこころもちだった。
あの時は地の利がわるかったために思うように働けなかったが、充分な広ささえあればあんな乞食の一人やふたり、またたく間に刻《きざ》んでくれたものを!――こう思うと誰もかれもいまにも彼奴《あいつ》があらわれればいいと望んでいるものの、待っている時に限って、姿を見せないのがほととぎすと蒲生泰軒で、とうとうここまで、北州の雄月
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