撃ち!――あわれ泰軒先生、不動のごとく血の炎に塗《まみ》れさった……と思いのほか刹那《せつな》! 燐光一線縦にほとばしって、ガッ! と兵衛の伸剣《しんけん》を咬《か》み返したのは自源流でいう鯉の滝昇り、激墜《げきつい》の水を瞬転一払するがごとき泰軒の剛刀であった。
 とたん!
 払われた兵衛は、自力に押されて思わずのめり足、タッタッタッ! 掻き抱く気味にぶつかってくる。そこを、踏みこたえた泰軒、剣を棄てて四つに組む――と見せて、即《そく》に腰をひねったからたまらない。あおりをくった岡崎兵衛、諸《もろ》に手を突いて地面をなめた。
 が、寸時を移さず泰軒には、こんどは門脇修理を正面に、左右に各一人、三角の剣尖を作っていどみかかっている。
 危機!
 ……とは言い条《じょう》、自源流とよりはむしろ蒲生流といったほうが当たっているくらい、流祖自源坊の剣風をわが物としきっている侠勇《きょうゆう》蒲生先生、とっさに付け入ると香《にお》わせて、誘い掛け声――。
「うむ!」
 と!
 これに釣りこまれたか、それとも羽毛の隙でも剣眼に映じたものか、右なる刀手、殺気に咽喉《のど》をつまらせて沈黙のうちに引くより早く、一線延びきってくる片手突き!
 太刀風三寸にして疾知《しっち》した泰軒うしろざまに飛びすさるが早いか、ちょうど眼前に虚を噛《か》まされておよいでいる突き手を、ジャリ……イッ! と唐竹割りにぶっ裂いた。
 濡れ手拭――あれを両手に持って激しく空に振ると、パサリ! という一種生きているような異様な音を発する、人体を刀断する場合に、それによく似たひびきをたてると言われているが全くそのとおりで、いま水からあげたばかりの布《ぬの》を石にたたきつけたように、花と見える血沫《ちしぶき》が四辺《あたり》に散って、パックリと口を開いた白い斬りあとから、土にまみれる臓腑《ぞうふ》が玩具箱《おもちゃばこ》をひっくりかえしたよう……。
 チラ! とそのさまに眼をやった泰軒、
「すまぬ。――南無阿弥陀仏」
 さすがは名うての変りもの、じぶんが殺《や》ったそばからお念仏を唱えてニッコリ、ただちに長剣に血ぶるいをくれて真向い立っている門脇修理に肉薄してゆくと。
 白昼の刃影、一時にどよめき渡って、月輪の勢、ジリリ、ジリリとしまると見るや、一気に煥発《かんぱつ》して乱戟《らんげき》ここに泰軒の姿を呑みさっ
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