これも不細工、ウフフフフ都では通用せん代物じゃて……」
と言いおわるを待たず、それッ! 軍之助が声をかけたのが合図。
パァッ! と円形が拡がると同時に飛びこんで来た秋穂左馬之介、かた足あげて、泰軒がまくらにしている一升徳利を蹴った――のが早かったか、一瞬にしてその脚をひっつかみ担《かつ》ぐと見せて急遽《きゅうきょ》身を起こした泰軒が遅かったのか?
とまれ、それはほんの刹那の出来事だった。
間髪を入れない隙に、あッ! と人々が気がついたときは、左馬之介の身体は岩石落とし……削りとったような大断面を鞠《まり》のごとくに転下して、たちまち山狭の霧にのまれ去った。
あとには、一|抹《まつ》の土埃が細く揺れ昇って、左馬之介のおちた崖の端に、名もない雑草の花が一本、とむらい顔に谷をのぞいている。
けれど! 驚異はそれのみではなかった。
とっさのおどろきから立ちなおって、すぐに泰軒へ目を返した月輪組は、いつのまに奪ったものか、そこに見覚えのある左馬の愛刀を抜きさげて、半眼をうっそりと突っ立っている乞食先生のすがたを見いださなければならなかった。
自源流奥ゆるし水月のかまえ……。
しかも、あの秒刻にして左馬を斬ったのだろうか、泰軒の皎刃《こうじん》から一条ポタリ! ポタリ! と赤いものがしたたって、道路の土に溜まっているのではないか。
凄然たる微笑を洩らす泰軒。
きらり、きらりと月輪の士の抜き連れるごとに、鋩子《ぼうし》に、はばき元に、山の陽が白く映《は》えた。
「なんじは、これなる町人を江戸おもてよりつけ参った者に相違あるまいッ!」
と、月輪軍之助、泰軒の直前に棒立ちのまま叱咤《しった》した。
「…………」
泰軒は無言。ほお髭が風にそよぐ。
「おのれッ! 応答《へんじ》をいたさぬかッ」
言いかけて、軍之助は声を低めた。
「いままた、同志秋穂左馬之介の仇敵《かたき》……かくごせい!」
そして!
その氷針のような言葉が終わったかと思うと、さアッ! と一層、月輪の円形が開いて、あるいは谷を背に、他は丘にちらばり、残余《のこり》の者は刃列をそろえてすばやく山道の左右に退路を断った。
とともに! 一刀流正格の中青眼につけた岡崎兵衛、めんどうなりと見たものか、たちまち静陣《せいじん》を離れて真っ向から、
「えいッ」
はらわたをつんざく気合いを走らせて拝み
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