そいだように断崖絶壁《だんがいぜっぺき》。
 まっ黒な峡《はざま》にそそり立つ杉の大木のてっぺんが、ちょうど脚下にとどいている。
 その底にそうそうと谷をたどる小流れの音。
 いく手に不動山の天害が屏風のごとくにふさぎ、はるかに瞳をめぐらせば、三箱の崎。舟尾《ふなお》の浜さては平潟に打ち寄せる浪がしらまで、白砂青松《はくさせいしょう》ことごとく指呼《しこ》のうち――。
 野火のけむりであろう、遠く白いものが烟々《えんえん》として蒼涯《そうがい》を区切っている。
「絶景! 絶景!」
 というべきところを、月輪の剣士一同、あゆみをとめて、ジュッケイ! ジュッケイ!
 と口ぐちにどなりあっている。
「町人! ここサ来《こ》! あの白っこい物アなんだ?」
「エエ……白っこい物と、はて、なんでございましょう――ア! あれは関田へおりる道じゃアございませんか」
「ほうか」
「コンラ町人、江ン戸にはこんな高い所あッか?」
「エヘヘ、まずございますまいな」
「ほうだろう……うおうい!」
 先の者がしんがりを呼ぶと、
「なんだア――ア?」
 と急ぎのぼってくる。
「中村のお城が見えるぞウイ」
「ほんなら、みんな並んで最後のお別れに拝むこッた。拝むこった」
 というので、なるほど、かすかに雲煙《うんえん》をついて見える相馬の城へ向かって、しばし別離のあいさつ……。黙祷《もくとう》よろしくあってまたあるきだすと、
「なあに、ここをかわせばもうじき広野の村へ下りでございます」
 なんかと与吉、この道は始めてのくせに例のとおり知ったかぶりをして、出張《でば》った山鼻の小径を曲がる――が早いか、血相をかえたつづみの与の公、ギオッ!
 とふしぎな叫声《さけび》をあげたが、駆けよった先頭の連中も、一眼見るより、これはッ! とばかりに立ちすくんだのだった。
 白い乾いた路上の土に、大の字なりふんぞりかえっている異形《いぎょう》の人物! パッサリと道土《つち》をなでる乱髪の下から、貧乏徳利の枕をのぞかせて……。
 思いきや! 泰軒蒲生先生の出現!
 顔いろを変えた与吉が、おののく手で各務房之丞の肱《ひじ》をつかみ、何ごとか二、三声ささやくと、ウムそうかと眼を見はった房之丞、おおきくうなずきながら首領月輪軍之助の耳へ取り次ぐ。
 と、
 軍之助の右手《めて》が高くあがって、
「なんじゃい、こいつ!」

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