にと、ふだん組頭から厳命されているその丹下の急使というので[#「というので」は底本では「とういので」]、一同、与吉を城内へ許しておいて、すぐひとりが、何人もの口を通して宿直《とのい》の重役へ伝達する。
重役から茶坊主、坊主からお側《そば》小姓と順をふんで、それから国主大膳亮の耳へ――。
早速これへ!
となって、城内に時ならぬ人の動き。
とりあえず焚《た》き火をあたえられて暖をとっていたつづみの与吉、旅仕度のまんまでお呼び出しに預かり、火焔をうつして樹影あざやかなお庭を、案内の近侍について縫ってゆくと、繁みあり、池水あり、数奇結構をこらしてさながら禁裡仙洞《きんりせんどう》へ迷いこんだおもむき。
夢のような夜景色といおうか……ぼんやりした与の公が、キョトキョトあちこち見まわしながら、とある植えこみから急に広い芝生へ出たときだった。
さきに立つ若侍がしいッ! と声をかけたので、あわてて頭をさげた与吉、気がついてみると、遙か向うのお縁側にくっきりと明るい灯がうかんで、二、三の人影が豆のように小さく並んで見える。
まだよほど遠いが、それでもここから摺《す》り足に移った。
骨を刺す寒夜ににわかの謁見《えっけん》だった。
縁ちかく敷居ぎわに、厚い夜の物を高々とのべさせ、顎を枕に支えて腹這《はらば》いになっている国主大膳亮は、うち見たところ五十前後の、でっぷり肥った癇癖《かんぺき》らしい中老人である。
広い頭部、大きな眼……絶えず口尻をヒクヒクさせて、ものをいうたびに顔ぜんたいが横にひきつる。
大きな茶筅髪《ちゃせんがみ》を緋《ひ》の糸で巻いたところなど、さすがに有名な変物《へんぶつ》だけあって、白絹の寝巻の袖ぐちを指先へ巻いて、しきりに耳垢《みみあか》を擦りとってはふっと吹いている。
が、眼は、射るように近づいて来る与吉に注がれていた。
燭台の光が煌々《こうこう》とかがやき渡って、金泥《きんでい》の襖《ふすま》に何かしら古《いにしえ》の物語めいた百八つの影を躍らせているのだった。
剣怪丹下左膳の主君、乾坤二刀の巴渦《ともえうず》を巻き起こしたそもそもの因たる蒐剣狂愛《しゅうけんきょうあい》の相馬|大膳亮《だいぜんのすけ》が、この深夜に、寝床の中からつづみの与吉に対面を許して、左膳の秘使を聞きとり、それに応じてさっそく対策を講じようとしているところ…
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