に栗橋をたって中田、古河の城下を過ぎ、本街道をまっしぐらに来かかったのがこの小金井である。
町を素通りに、スタスタ通り抜けようとした、宿場はずれ。
ふと一軒の茶店からしきりに江戸江戸と江戸を売りに来ているような声がするので、泰軒、何ごころなくみやると、見たことのある町人がさかんに気焔《きえん》をあげている。
ハテナ! と小首をかしげたとたん、最初に思い出したのが正覚寺門前振袖|銀杏《いちょう》のしたで、諏訪栄三郎のふところから財布を抜いて走った男。これが本所鈴川源十郎の取巻きの一人で、名もわかっている……つづみの与吉! と、とっさにみてとったが、泰軒は知らん顔、そのまま向う側の茶店の入口近く陣取って、隠れるでもなければうかがうでもない、こっちから公然《おおっぴら》ににらみつけていると――。
馬子をどなりつけて振り向いたとたん、思いがけない泰軒のいることに気のついた与の公、はッとすると同時に青菜に塩としおれ返ってしまった。
今のいままで恐ろしく威勢のよかったやつが、ムニャムニャとにわかに折れてしまったから、びっくりしたのは茶店のおやじだ。
「どうしただね? 腹でも痛み出したかね?」
うるさくきくので、与吉はこれをいいことに、
「うん? ううん……なんでもねえ。いや、腹が痛えや。こんな団子を食わせるからだ」
「あんだって、この人は団子にばかりそうけちイつけるだんべ! 三皿もお代りしたくせに……」
顔をしかめてうなりながら、与吉がチラ! チラ! とうしろをふり返ると、路をへだてた床几《しょうぎ》に泰軒先生それこそ泰然と腰をすえてまたたきもせずにこっちの方をみつめている。
与吉は、ジリジリと背中が焼けつくようで、いてもたってもいられぬ心地。
蛇ににらまれた蛙同然――人もあろうに一番の難物が、どうしてここへこうヒョッコリ現れたんだろう! こいつア厄介なことになったもんだ! と一時は与吉、顛倒《てんとう》せんほどに驚いたが、なあに、この先まだ道は長え。宇都宮へへえるまえにでもどこかできれいにまいてやろうと決心を固めて、
「爺さん! ホイ、茶代だ。ここへおくぜ」
と勢いよく起ちあがると、それを待っていたように、むこう側の茶店でも泰軒が腰をあげたようす。
首すじがゾクゾクして、与吉はともすれば立ちすくみそうになったのだった。
猛犬に踵《かかと》をかがれながら
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