て躍りたつと、手にはもう明皓々《めいこうこう》たる武蔵太郎の鞘を走らせて。
 刃光らんらんとして一抹の冷気!
「おのれ、丹下左膳!」
 とジリリ青眼につけて一隅へ迫ったが、あるものは壁に倒れた己《おの》が影ばかり……いとしい女に去られて気がふれたか諏訪栄三郎、あらず! こみあげて来たとっさの闘意をもてあまして、かれはその場に左膳を仮想し、ひとり刀を擬しているのだ。
「やよ左膳! なんじ一書を寄せて乾雲丸を火事装束の五人組に奪われたと申し出たが、不肖《ふしょう》栄三郎といえどもかかるそらごとは真に受けぬぞ! 小策を弄《ろう》す奸物めッ! いずれそのうち参上してつるぎにかけて申し受くるからさよう心得ろ――はっはははは」
 からからと笑いながら刀身を鞘へ……
 が! この時!
 この栄三郎のにわかの抜刀を、裏口のすきからのぞいて、ビックリあわてた黒い影があったのを栄三郎は知らなかった。
 雪に紛れて忍び寄った一人の女が、さっきから勝手の障子にはりついて、そっと家内をうかがっていたのだ。
 だれ? と見なおすまでもない。
 夜眼にも知れる粋すがたは、道行きめかした手拭をかぶった櫛まきお藤。
 急の剣閃《けんせん》におどろいて一時戸を離れたのが、相手なしの見得《みえ》と知ると、またコッソリ水口に帰ってきて、呼吸を殺して隙《すき》見している。
 しんしんと音もなく積もる雪。
 江戸に、その冬はじめて雪の降った夜だった。
 栄三郎は、床を敷いて夜着をかぶった。
 モウ――ンとこもって、どこか遠くで刻を知らせる鐘の音。
「四つか」
 思うまい――としても、まぶたの裏に花のように咲くのは、出ていったお艶の顔だ。
 この降雪《ゆき》に、どこにいることか――当り矢のころからのことが走馬灯《そうまとう》のように一瞬、栄三郎の脳裡《のうり》をかすめる。
 きょう留守のあいだに泰軒がきて、お艶からそのふかい真意を明かされ、何か考えるところのあるものか、しばし思案ののち快くお艶の身がらを引き受けて、つれだって家を出て行ったことは、栄三郎は知る由もなかった。
 まして、お艶と泰軒のあいだにどんな話しあいがあったやら、――そして泰軒はお艶をいずくへ伴い去ったことか?
 ……栄三郎は眠りに落ちた。疲れきって、こんこんと深い熟睡《うまい》に。
 深更《しんこう》。
 ホトホトとおもての格子が鳴って、何者
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