ほ、お気の毒だったねえ。だからさ、だから責められないうちに白状《はくじょう》おしよ」
「へ? 白状って? あっしゃ何も櫛まきの姐御に包み隠しはいたしませんよ。そこへ突然あつういやつ[#「やつ」に傍点]をニュウッ! と来たもんだ。へっへ、人が悪いぜ姐御」
「何を言ってやんだい! そんならきくけど、その旅仕度はどうしたのさ?」
「あ! これか」と与吉は頓狂《とんきょう》に頭をかいて、「これあ、なんだ、私が味噌《みそ》をしぼった化けこみなんだ。てえのが、姐御も知ってのとおり、わたしも浅草じゃあ駒形のつづみとかってちったあ知られた顔だから、おまけにあの栄三郎てえ若造にあ覚えられてもいるしね、きょうの仕事に当たって、素《す》じゃあどうもおもしろくねえ。かといって変に細工をして扮装《つく》りゃあかえって人眼につくしさ、さんざ[#「さんざ」に傍点]考えたあげくのはてが、この旅人すがたと洒落《しゃれ》たんでございます。どうです、似合いましょうヘヘヘ」
「ああ、そうかい」軽く受けながらも、お藤はきらり[#「きらり」に傍点]と与吉の顔へ瞳を射った。「じゃ、どこへも走るんじゃないんだね?」
「正直のところ、姐御がいらっしゃる間は、与吉も江戸を見限りはいたしません」
「うまいこといってるよ。左膳様は?」
「さあ――鈴川さんとこにおいででげしょう」
「げしょう[#「げしょう」に傍点]とはなんだい、知らないのかい?」
「このごろ、あの屋敷にはお上の眼が光っておりますから、あっしもここすこし足を抜いております」
「そんならいいけれど、与の公、お前はどうも左膳さまとは同じ穴の狸《むじな》らしいね」
「と、とんでもない!」
 とあわてる与吉を、お藤はじろり[#「じろり」に傍点]と冷やかに見て、
「とにかく、お前と左《さ》の字とは何をもくろんでるか知れやしない。あたしゃこんな性分で中途はんぱなことが大嫌いさ。どうせ袖にされたんだから、これからずっと何かと丹下さまのじゃまをするつもりだよ、もう当分お前をこの家から出さないからね。いいかい、そう思っておいで」
「姐御、そいつあ一つ勘弁《かんべん》願いてえ」
 と剽軽《ひょうきん》に頭をさげながら、与吉が、めいわくそうな、それでいて嬉しそうな顔を隠すように伏せていると、お藤が下からのぞきこんだ。
「お前の、左の字に頼まれて弥生《やよい》さんをねらっておいでだ
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