自分で栄三郎を訪れて、さらりと和解を申しこみそうなもの。そのほうがまた、どんなにあの人らしいか知れやしない――。
 第一、あの丹下様が、あんなに命をかけていた乾雲丸をそうやすやすととられるだろうか?
 けれど、ものにはすべて機《はず》みということもある。
 丹下左膳といえども魔神ではない……こう考えてくると、お藤は与吉がうそ[#「うそ」に傍点]をついているとも、左膳に欺《だま》されているとも思えないのだった。要するに、何がなんだかわからないお藤。
「そうかい」
 とおもしろくもなさそうにつぶやくと、頭痛でもするのか、しきりにこめかみをもみ出した。かと思うと今度は丹念《たんねん》に火鉢の灰をかきならしている。
 あたまの中ではいろんな思いがさわがしく駈けめぐっているが、外見《そとみ》はいかにも閑々《かんかん》としてお妾のごとく退屈そうだ。
 撫で肩に自棄《やけ》に引っかけた丹前、ほのかに白粉《おしろい》の移っている黒|襟《えり》……片膝立てた肉置《ししおき》もむつちり[#「むつちり」に傍点]と去りかけた女盛りの余香《よこう》をここにとどめている景色――むらさきいろの煙草の輪が、午さがりの陽光のなかをプカリプカリと棚の縁起物《えんぎもの》にからんで。
 つづみ[#「つづみ」に傍点]の与の公、この白昼いささかごてりと参って、お藤のようすを斜めに眺めている。
 丹下の殿様も気が知れねえ、こんな油の乗りきってる女を振りぬくなんて、と。

 吐き出すように、お藤がいう。
「すると何かえ、丹下さまはもうお刀をその火事装束とやらの五人組にとられてしまって、お手もとに持っていないということを文にして、それをお前が、あの方の命令《いいつけ》で栄三郎の袂へ入れて来たと言うんだねえ?」
「へえ。いかにもそのとおり……大骨を折りましたよ」
 与吉は、お藤の香が漂ってくるようで、まだぼんやりと夢をみている心地だ。つと癇《かん》走ったお藤、熱く焼けた長煙管《ながぎせる》の雁首《がんくび》を、ちょいと伸ばして与吉の手の甲に当てて、
「しっかりおしよ、与の公! なんだい、ばかみたいな顔をしてさ。夕涼みの糸瓜《へちま》じゃあるまいし」
「あッ! 熱《あ》つつつ――」
 とびのいた与吉は、大仰《おおぎょう》に顔をしかめつつ甲をなめて、
「ひでえや姐御。あついじゃありませんか……おお熱《あつ》!」
「ほほ
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