ろうねえ? ところが与の公、あの娘《こ》は先日から行方知れずさ」
弥生が行方不明《ゆくえふめい》に!
事実、いつぞや雨の朝早く、しょんぼりと瓦町の栄三郎の家を出て以来、弥生は番町の養家多門方へも帰らなければ、その後だれひとり姿を見たものもない……。
生きてか死んでか――弥生の消息はばったり[#「ばったり」に傍点]と絶えたのだった。
不審《ふしん》! といえば、もうひとつ。同じ明け方に、この櫛まきお藤は、第六天篠塚稲荷の前で捕り手に囲まれて、すでに危うかったはずではないか、それが、鉄火《てっか》とはいえ、女の手だけでどうしてあの重囲《じゅうい》を切り抜けて、ここにこうして、今つづみ[#「つづみ」に傍点]の与吉を、なかば色仕掛《いろじかけ》で柔らかい捕虜《とりこ》にしようとしているのであろう。
謎《なぞ》は謎を生み、わからないことずくめだが、それより、もっと合点《がってん》のいかない一事は。
ちょうど同じころおい。
左膳の手紙を、大岡さまとは知らないが、由ありげな武士に拾われてしまった諏訪栄三郎が、気の抜けたように露地の奥の自宅《うち》へ立ち帰って、ぼんやりと格子戸をあけると!
水茶屋の足を洗って以来、いつもぐるぐる巻きにしかしたことのない髪を、何を思ってかお艶はきょうは粋《いき》な銀杏《いちょう》返しに取りあげて、だらしのない横ずわりのまま白い二の腕もあらわに……あわせ鏡。
「だれ? おや! はいるならあとをしめておはいりよ。なんだい。ほこりが吹きこむじゃないか。ちッ。またお金に縁《えん》のない顔をさげてさ。ああ、嫌だ、いやだ!」
うらと表の合わせかがみ――この変わりよう果たしてお艶の本心であろうか?
煩悩外道《ぼんのうげどう》
あさくさ田原町の家主喜左衛門と鍛冶屋富五郎との口ききでおさよが鈴川源十郎方へ住みこんだ始めのころは。
五百石のお旗本だが、小普請《こぶしん》で登城をしないから馬もなければ馬丁もいない。下女もおさよひとりという始末。
狐《きつね》でも出そうな淋しいところで家といっては鈴川の屋敷一軒しかない。
それでも御奉公大事につとめていると、丹下左膳《たんげさぜん》、土生仙之助《はぶせんのすけ》、櫛《くし》まきお藤《ふじ》、つづみ[#「つづみ」に傍点]の与吉をはじめ、多勢の連中が毎夜のように集まって来ては、ある時は何日とな
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