あの児へ何かお歳暮をやらなくちゃあ……女の子達には出ず入らずで一様に羽子板がいいけれど、腕白《わんぱく》にはやはり破魔《はま》の弓かしら?
 こんなことを考えて、何度も腰をのばしながら、喜左衛門の女房はせっせと格子の前を掃いている。
 うつ向いて箒の手を動かしていると、眼に入るのは近くを往来する人の足ばかりだ。
 知った人が声をかけてゆく。
 通る人の足をよごさないように気をつけてはいたが、誰かにお低頭《じぎ》をされた拍子だった。ふと箒の先に思わぬ力がはいって折りから掃きためてあった塵埃《ごみ》が飛んで、ちょうど前を歩いていた人の裾から足袋《たび》へしたたかかかった。
 はっとして顔をあげると、
 着流しに蝋鞘《ろうざや》の大小を差した、すこしふとり気味の重々しいお侍である。
 切れ長の眼《まな》じりに細い皺を刻んで、じっと立ちどまったまま、埃《ほこ》りを浴びた足もとと、箒をさげてどぎまぎしている老婆の顔とをしずかに見くらべている。
 喜左衛門の女房は、背中に火がついたように狼狽《ろうばい》した。
 お手うち! 斬られる! 斬られないまでも、どんなおとがめがあろうも知れぬと思って、はっとすると舌がこわばった。
「あれッ! とんだ、また、粗相《そそう》をいたしまして! どうぞ殿様、どうぞ御料簡《ごりょうけん》なされてくださりませ」
 とっさにこう詫《わ》びると同時に、のめるように飛んで行って前掛けの先で侍の足を払おうとした。
 と、侍は二、三歩さがって、おだやかに笑った。
「ああ、よいよい。あやまちは誰にでもあること――自分で拭くから心配はいらぬ」
 言いながらもう懐紙《かいし》を出して、ゆっくりと裾をはらっている。
 相当の年齢。服装なども、眼にはつかないが、争えない高貴なおもむきを示して、何よりもそのふくよかな穏顔《おんがん》に、人なつっこい笑みが春の海のように輝いていることだった。
 ぼんやり見ていた喜左衛門の女房はわれに返ったように再び侍の足へ突進して、転ぶようにしゃがむなりまたほこりをたたきだした。
「わたくしの不調法でございます。お手ずからはあんまりもったいなくて、恐れ入ります。どうぞおゆるし遊ばして」
「いや。それにはおよばぬ」
 侍は急いで身をひくと、手を取らんばかりにして、なおも争う老婆を立たせた。
「ははは、なんのこれしき! お前も家にはいっては人
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