3−41]《ど》ッ! と得|耐《た》えず縁に崩れる。
かぶさってくるその傷負《てお》いを蹴ほどいて、一歩敷居に足をかけ、栄三郎、血のしたたる剛刀をやみに青眼……無言の気合いを腹底からふるいおこして。
静寂不動《せいじゃくふどう》。
たちまち、暗がりに慣れた栄三郎の眼に、部屋の中央に端坐《たんざ》して一刀をひきつけている人影がおぼろに浮かんできた。
「坤竜か。この雨に、よく来たなあ! 先夜は失礼した――」
低迷する左膳の声――とともにこの時母家のほうに当たって戸のあく音がして、鈴川源十郎のがなりたてるのが聞こえた。
「なんだッ! 丹下ッ! 何事がおきたのかッ!」
真十五枚|甲伏《かぶとぶせ》の法を作り出して新刀の鍛練《たんれん》に一家をなした大村|加卜《かぼく》。
かぶと伏せは俗に丸鍛《まるぎた》えともいい、出来上がり青味を帯びて烈《はげ》しい業物《わざもの》であるという。もと鎌倉藤源次助真が自得《じとく》したきりで伝わらなかったのを、加卜これを完成し、世の太刀は死に物なり甲伏は活太刀《かったち》なりと説破して一代に打つところ僅かに百振りを出なかった。
武蔵太郎安国は、この大村加卜の門人である。
いまこの、武蔵太郎つくるところの一刀をピッタリ青眼につけた諏訪栄三郎、闇黒に沈む庵内に眼をこらして、長駆してくるはずの乾雲丸にそなえていると。
別棟《べつむね》の母家のほうがざわめき渡って、鈴川源十郎、土生仙之助、つづみ[#「つづみ」に傍点]の与吉、その他十四、五人の声々が叫びかわしているようす。
今にも庭へ流れ出てくれば、闇中の乱刃に泰軒ひとりでは心もとない……とふと栄三郎の心が戸外へむくと、うしろの戸口に!
「栄三郎殿ッ! ここは拙者が引き受けたぞ。こころおきなく丹下をしとめられい!」
との凜《りん》たる泰軒の声に、栄三郎は決然として後顧《こうこ》のうれいを絶ったが、しとめられい! と聞いて、にっとくらがりに歯を見せて笑ったのは、まだ膝をそろえてすわっている丹下左膳だった。
「ここへ斬りこんでくるとは、てめえもいよいよ死期が近えな」
と剣妖左膳、ガチリと鍔が鳴ったのは、乾雲の柄を握った片手に力がこもったのであろう。同時に、
「では、そろそろ参るとしようかッ」
と、おめきざま、紫電《しでん》低く走って栄三郎の膝へきた。跳びのいた栄三郎、横に流れた
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