のかしら?
と思いながら、なおも気どられないように間隔を置いて、和泉屋が尾行してゆくと、女はすう[#「すう」に傍点]っとその船大工場の横を通り過ぎた。
突き当りは海。
どぶうり、どぶり――浪の音がしている。急いで追っかけて砂浜へ出ると白衣の女は潮風に吹かれて波打ちぎわに立っている。
おや! 投身《みなげ》かな?
声をかけようか。
しかし、酒徳利と心中というのもおかしいぞ。
もうすこし待ってようすを見てやれ。
こう考えているうちに、和泉屋はすっかり胆《きも》を潰してしまった。
着衣のまんま、女が海へはいりだしたのだ。片手に酒の入っている徳利、片手を軽くぶらぶら[#「ぶらぶら」に傍点]させて、着物の裾を引き上げるでもなく、まるで往来をあるくと同じように、女は沖へ向って進みつつある。
遠浅の内海だから寄せる浪は低いがそれでも岸近く砕《くだ》けて白い飛沫を上げている。浪が来ても、女はべつに跳ねもしない。一歩二歩と次第に深くなって、膝から腰、腹から胸と、女の身体《からだ》はだんだん水に呑まれてゆく。
磯松の根っこからひそかにこれを窺っている和泉屋こそ、薄っ気味も悪いが気が気
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