早耳三次捕物聞書
海へ帰る女
林不忘
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【テキスト中に現れる記号について】
《》:ルビ
(例)蛤御門《はまぐりごもん》
|:ルビの付く文字列の始まりを特定する記号
(例)本芝四丁目|鹿島明神《かしまみょうじん》
[#]:入力者注 主に外字の説明や、傍点の位置の指定
(例)ずぶ[#「ずぶ」に傍点]濡れ
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いやもう、いまから考えると途方もないようだが、元治元年といえば御維新の四年前で、蛤御門《はまぐりごもん》の変、長州征伐、おまけに英米仏蘭四カ国の聯合艦隊が下関を砲撃するなど、とかく人心が動揺している。したがってなかなか珍談があるなかにも、悪いやつらが腕に捻《よ》りをかけて天下を横行したから、捕物なんかにも変り種がすくなくない。
これは江戸花川戸の岡っ引、早耳三次が手がけた事件の一つ。
そのころ本芝四丁目|鹿島明神《かしまみょうじん》の近くに灘《なだ》の出店で和泉屋《いずみや》という大きな清酒問屋があった。召使の二、三十人も置いてたいそう裕福な家だが、土間の一隅で小売りもしている。これへ毎晩の暮れ六つと同時に一合入りの土器《かわらけ》をさげて酒を買いにくる女があった
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