またかりに雨なら雨でそのために傘って物があらあ。しっかりしろ。」
 松どんくやしがって泣き声だ。
「いくらおいらがしっかりしたって、濡れてたものは仕方がねえ。」
「だからお前は妙痴奇林《みょうちきりん》の唐変木《とうへんぼく》の木槌頭《さいづちあたま》のおたんちん[#「おたんちん」に傍点]だってんだ。」
「白い着物からぽたぽた[#「ぽたぽた」に傍点]水滴《しずく》が落ちてたい。」
「なにいってやんで! 手前の眼から落ちそうだい。」
 とうとう喧嘩になった。そこで番頭が仲裁に入って、ともかく松どんがそういうものだから、まだ女が去って間もないことだし、もし濡れていたものなちその跡でもあるかもしれないと、女が立っていた酒樽の土間を調べてみると、なるほどそこの土だけが水を吸ってしっとり[#「しっとり」に傍点]としていた。まず松どんが勝ったわけで、店の者は不思議に思いながらも、その晩はそれですんでしまった。
 すると、あくる日の夕方、蓮乗寺の鐘を合図のように、また同じ女が来た。今度はゆうべ[#「ゆうべ」に傍点]の松どんの話があるから、みんなも気をつけて見たが、まったくその着ている白装束《しろしょ
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