た。「寝呆けなさんな。お星さまが出ていらあ。」
まったくそれは晴れ渡った夕方だった。未だどこかに陽の光が残っていて明日の好天気を思わせる美しい宵闇だった。
「そうかな。変だなあ。」
と初めの小僧は長どんの言葉を疑って、不審そうに首を捻っていたが、やがて自分で戸口へ行って戸外をのぞいた。
「どうでえ、たいした降雨《ふり》だろう。」
うしろから長どんがひやかした。小僧は何にもいわずに二、三歩おもてへ出て、雨を感ずるように掌《てのひら》を上へ向けて、空を仰いだ。長どんは笑いだした。
「ははは、いくら見たって、この晴夜《はれ》に雨が降るもんか。馬鹿だなあ、松どんは。」
で、松どんも仕方なしに家内《うち》へはいったが、いっそう腑に落ちない顔で、
「しかし、妙だなあ!」と眼を円くして、「いま来た女の人ね、あの白い着物を着た――ずぶ[#「ずぶ」に傍点]濡れだったよ。」
が、長どんは相手にしない。
「ふふふ、雨も降っていねえのに濡れて来るやつがあるもんか。お前はどうかしてるよ。」
「だって、ほんとに濡れてたんだもの、頭の先から足の先までびしょ[#「びしょ」に傍点]濡れだった。」
「ばかな!
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