をもって買物に出て行く。どの店へでも行ったらしいが、田中屋へもよくそのまあたらしい小判をもって来た。あんまりたび重なるので、源右衛門が自分でそれを集めて持って行って役人に検べてもらった。するとやはりまぎれもない天下の通宝だという。源右衛門は狐につままれたような心持ちで、ある日こっそり隣の女の子に訊いてみた。
「姉さんはよく光ったお金を持ってるね。どこからもって来るの?」
 すると女の子が答えた。
「持って来るんじゃないよ。あれ、姉ちゃんが造るんだよ。」
 源右衛門はぎょっ[#「ぎょっ」に傍点]として首をちぢめてあたりを見廻すと、そのまま家へ帰ってすぐつくづく考えた。
 隣の女はにせ金を造っている。それはいいが、どこへ持って行っても、お役人に見せてさえ、天下のおたからとして折紙をつけられるのがへん[#「へん」に傍点]ではないか。さてはよほど上手なにせ金つくりとみえる。
 と、ひとり呟いているところへ、案内もなくあわただしく隣の女がはいって来た。そっ[#「そっ」に傍点]と戸を閉めて源右衛門を見た女の顔は、血の気をなくしていた。
「まあ! いま妹が帰って来て聞いたんですけれど、あなたにとんだ
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