ことを申し上げたそうで、どうも、お聞き流しを願います。これが知れましては私は大罪人、お情をもって御他言なさらないように――。」
「お前さん顔に似合わねえ凄いことをしなさるなあ。いや、人には話さないから安心しなさい。」
 こう言って源右衛門が大きく胸を叩いて見せると、女はそれから打ちしおれて、るる[#「るる」に傍点]として自分の素性なるものを物語った。
 それによると女は、日本橋のさる老舗の娘などと言ったのは嘘の皮で、じつはこうやって方々の貸家を移り歩いてはにせ[#「にせ」に傍点]の小判を造っている女悪党だとのことだった。これにはさすがの源右衛門も胆《きも》をつぶしてしまったが、それよりも彼の驚いたのは、女の拵《こしら》えた小判が、どこへもって行っても立派に通用するという事実だった。それを女に言うと、もうすっかり本性を出した女は、立膝かなんかで、源右衛門の煙管《きせる》を取り上げてすぱりすぱり[#「すぱりすぱり」に傍点]とやりながら、
「あい。それがあたしの手腕《うで》でさあね。もとは銅《あか》なんだけれど、ちょいとしたこつ[#「こつ」に傍点]で黄金《こがね》に見えるんだよ。あたしはこの
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