術を切支丹屋敷《きりしたんやしき》の南蛮人《なんばんじん》に聞いたんでね。道具がちっとも揃ってないから、いくらかちかち[#「かちかち」に傍点]急いだってひと晩に一枚しきゃできやしない。ほんとにじれったいったらないのさ。」
これで源右衛門は二度びっくりして、
「道具がなくてひと晩に一枚しきゃできない? すると道具が揃えばひと晩にもっとたくさんできるのかい?」
女はすましていた。
「そうたくさんもできないけれど、まあ、十枚や十五枚はねえ。」
「そりゃ豪気《ごうぎ》だ!」
と思わず源右衛門が大声を出すと、女が手を振った。
「いやですよ、この人は。人に聞えたら私が困るじゃないか。」
源右衛門は頭を掻きながら膝を進めて、
「そ、その話はほんとかね?」
「だれが嘘を言うもんか、あたしの暗いところじゃないの。」
「で、その拵《こしら》える道具ってどんな物だね?」
「道具じゃない、機械だよ。」
と、女は答えて、源右衛門の出す紙と矢立《やたて》を取って、その、銅の板から小判を造りだすという南蛮伝授の機械なるものを図面にして画《か》いて見せた。そして、自分は委《くわ》しく聞きもしたし、細工物は手
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