に覚えもあるので、あちこちから材料や道具さえあつめれば、自分の手一つでこっそりその機械をつくり上げて、機械さえあればひと晩に十五、六枚の小判を作ることはなんでもないといった。しかもその小判は、いかにその道の役人が検べても、金座で吹いたものと寸分の相違はないのだ。これは源右衛門自身が経験してよく知っている。
 役人がきわめをつけたいじょう、この女の作る小判はにせ[#「にせ」に傍点]ではなくてほん物なのだ!
 源右衛門はとっさに考えた。それではこの女に資本を下ろしてやって機械を作らせ、どんどん小判をこしらえさせれば、たちまちにして分限者《ぶげんしゃ》になるわけだと――彼は声を小さくして訊いた。
「で、その機械をこしらえる費用は?」
「そうねえ。まず三百両あったらちょいと間に合うかねえ。」
 そこで源右衛門は平蜘蛛のようになってこの福の女神を拝んだのだった。
 翌朝《あくるあさ》さっそく息子の源七の手前を何とかつくろって、源右衛門はその金を女へ渡したのだったが――結果は知れている。女もその妹という子供も、それきり豆店へは帰って来なかった。言うまでもなく女の小判は金座方の手になったほんとの小判
前へ 次へ
全23ページ中13ページ目


小説の先頭へ
文字数選び直し
林 不忘 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ 登録 ご利用方法 ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング