だったのだ。女は新しい小判を相当用意して来て、夜中に起きて鍋や釜を火箸ででも叩いたり擦ったりして、さんざん壁越しに源右衛門の注意を惹《ひ》いたのち、朝になると必ず子供に小判をもたせて出してやって、機《おり》を見て子供の口から源右衛門へ吹き込ませたもので――女が良くて、おまけに子供まで入っていたとはいえ、もとはといえば源右衛門の慾から出たことなので、豆店の人々は、まんまと三百両|騙《かた》り取られた源右衛門を当分物笑いにしていたが、ひょい[#「ひょい」に傍点]とこの話を聞き込んだのが、早耳という異名をとった花川戸の親分、岡っ引の三次だった。で、それとなくあちこちへ網を張ってその女を待っていると、間もなく思いがけないところでこの子供づれの女ぺてん[#「ぺてん」に傍点]師の尻尾を掴まえることができた。
第二話
そのころ駒形に兼久《かねきゅう》という質屋があって、女房に死なれた久兵衛という堅造《かたぞう》のおやじが、番頭と小僧を一人ずつ使って、かなり手広く稼業をしていた。花川戸の三次の家とはそう遠くもないし、町内の寄り合いや祭の評議などでよく顔が合うので、出入りというわけではな
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