早耳三次捕物聞書
浮世芝居女看板
林不忘

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【テキスト中に現れる記号について】

《》:ルビ
(例)菱屋《ひしや》

|:ルビの付く文字列の始まりを特定する記号
(例)三百両|騙《かた》り取られた

[#]:入力者注 主に外字の説明や、傍点の位置の指定
(例)ぶらぶら[#「ぶらぶら」に傍点]している
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     第一話

 四谷の菱屋《ひしや》横町に、安政のころ豆店《まめだな》という棟割長屋《むねわりながや》の一廓があった。近所は寺が多くて、樹に囲まれた町内にはいったいに御小役人が住んでいた。それでも大通りへ出る横町のあたりは小さな店が並んで、夕飯前には風呂敷を抱《かか》えた武家の妻女たちが、八百屋や魚屋やそうした店の前に群れていた。
 豆店というのは、菱屋横町の裏手の空地にまばらに建てられた三棟の長屋の総称で、夏になると、雑草のなかで近所の折助《おりすけ》が相撲をとったり、お正月には子供が凧《たこ》をあげたりするほか、ふだんはなんとなく淋しい場所だった。柿の木が一、二本、申しわけのように立っていて、それに夕陽があたると、近くの銭湯から拍子木の音が流れて来るといったような、
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