投げ出した。ちゃりんと音のするのを見ると、思いがけなく、眼を射るような吹きたての小判だった。
「すばらしい物じゃないか。どっから手に入れた?」
 源右衛門がこう言って訊くと、源七はにこり[#「にこり」に傍点]ともせずに小判を見つめながら、
「真物《ほんもの》ですよ、お父つぁん。」
 と怖そうに声を低めた。
 源右衛門はその顔を見つめて、
「なに? ほんものには相違あるまい。なぜそんな妙なことを言うのだ? 誰から受け取ったのだ?」
 すると源七は、それでも疑い深そうに、小判を指さきへのせて弾いてみながら、
「まあ、本物でよござんしたがね――。」
 と、つぎのようなことを語りだした。
 今朝がた、店《たな》をあけて間もなくだという。
 源右衛門の隣りの家の女の児が、風呂敷包みを下げてお米を少し小買いに来たのだったが、その時、女の児が米代としておいて行ったのがこの小判だった。豆店の新参ものの女からこんな見事な小判で買物に来たのだから、店のほうでも一応は不審を抱いて、子供を待たしておいて源七が裏から小判を持って出て、そっと近所の役人に鑑定《めきき》してもらうと、まぎれもない金座で吹いた小判だと
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