こそこの若い女が、家財道具もない家に、女の子と二人きりでぽつん[#「ぽつん」に傍点]と暮しているのだから、これは人の口の端に上るのは無理もあるまい。女はじつに眼鼻だちの整った、色の浅黒い江戸前のいい女だったが、女の子も、眼のくりくりした可愛い子で、長いあいだ貧乏していると見えて、どっか物欲しそうな、こましゃくれたところがあった。女はほかの者へは挨拶もしないくらいで、物好きな長屋の若い者なんかが、いろんな機会に話しかけようとしても、白い歯一つ見せたことはなかったが、源右衛門にだけは初めからうちとけて、おりにふれて自分の身の上を開かしたりした。それによると、女は、日本橋辺の老舗《しにせ》の娘で、商売に失敗して両親が借金を残して死んだので、たったひとりの妹をつれて隠れているとのことだった。これが源右衛門の口で近所《きんじょ》界隈《かいわい》にひろまると、女を見る一同の眼が同情に変ったが、その中で一番熱心に味方になって世話をやきだしたのは、言うまでもなく差配の源右衛門だった。こうして女とその妹という小さい子とは、豆店の源右衛門の隣の家に住むことになったが、五日と経ち十日と過ぎるうちに、まず源右
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