ておけばそれだけ家が寝るわけだから、源右衛門が気ちがいのように借家人を探していると、ある日の夕方、二十歳《はたち》ばかりのすっきりした美しい女が、六つほどの女の子の手をひいて、源右衛門の格子の前に立った。
女がその家を見たいというので、源右衛門は世辞たらたらで、表の戸を開けた。なかは六畳に四畳半の住み荒らした部屋で、ちょっと誰でも二の足をふむほどのきたなさだったが、女はろく[#「ろく」に傍点]に見もせずにすぐに借りることにして、その翌朝どこからともなしに、風呂敷包みを二つ三つぶらさげたままで、子供をつれて移って来た。
あんまり手軽な引越しなので、源右衛門もちょつと不安な気がしたが、女はさっそく隣近所に蕎麦《そば》を配るし、なにしろ美人で愛嬌《あいきょう》がいいので、源右衛門も奇異の感よりはむしろ最初から好意をよせていた。
「源右衛門さん、お隣りへ素晴らしいのが来ましたね。危ねえもんだ。」
などと近所の人に言われると、源右衛門はいかにも危なそうににやにや[#「にやにや」に傍点]して、いい気に顎をなでたりしていた。
まず女の正体が長屋じゅうの問題になった。なにしろ二十歳《はたち》そ
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