がらごそごそ[#「ごそごそ」に傍点]懐中を探って、男は四つにたたんだ古い紙片《かみきれ》を取り出してひらいて主人のほうへ押しやった。見るとなるほど女の似顔が画いてある。二十《はたち》前後の美《い》い顔だった。兼久と番頭と小僧の六つの眼が紙へ落ちると、男も向う側から覗き込んで、説明の言葉を挾んだ。
「尋ね人と言ったって、何も別にお上の筋じゃあないから、ひとつ包まず隠さず話してもらいたいんだが、この女ですがね――年は二十そこそこ、なかなかの美人だ。が、眼にすこし険がある。ちょいとうけ口だね。背は高からず、低からず、中肉で色は滅法界《めっぽうかい》白い。服装《なり》は、さあ――何しろ旅から旅を渡り歩いているんだから、おそろしく汚のうがしょうが、なによりの目標《めじるし》てえのがこの右の眼の下の黒子《ほくろ》だ。ねえ。」と男は紙の似顔の黒点を指さしながら、「ねえ、こんな大きな黒子だから、誰だって見落すわけはない。さあ、仔細《しさい》はあとで話すとして、どうですね、この女がお店へ質をおきに立ち寄りませんでしたか。」
そう言われて久兵衛と番頭は、もう一度絵の顔を見直して思い出そうとつとめてみたが
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