に傍点]と哭き崩れる。その間に立って気も顛倒《てんとう》した伊助、この時思い付いたのが、証拠の有無という重大な一事であった。
「ねえ親分。」と伊助は三次のほうへ膝を進めて、「しが[#「しが」に傍点]ない渡世こそしているものの、他人《ひと》に背後指《うしろゆび》差されたことのないあっし[#「あっし」に傍点]、夫の口から言うのも異なものだが、彼女《あれ》とても同じこと、あいつにかぎってそんな大それたことをするはずは毛頭ありません。こりゃあ何かの間違えだ。いくら先様が大分限《だいぶげん》でもみすみす濡衣《ぬれぎぬ》を被《き》せられて泣寝入り――じゃあない、突出されだ、その突出されをされるわきゃあない、とこうあっし[#「あっし」に傍点]は思いましたから――。」
 ぽん[#「ぽん」に傍点]と吐月峯《はいふき》を叩いた三次、
「だが伊助どん、待ちねえよ。ただの難癖言掛《なんくせいいがか》りじゃすまねえことを、そうやって担ぎ込んで来るからにゃあ、先方《むこう》にだってしかとした証拠ってものがあろうはず。」
「へえ。あっしもそこを突っ込みやしたが。」
「何ですかえ、その亀安の番頭は、お藤さんが珊瑚《さ
前へ 次へ
全25ページ中8ページ目


小説の先頭へ
文字数選び直し
林 不忘 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ 登録 ご利用方法 ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング