早耳三次捕物聞書
うし紅珊瑚
林不忘
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【テキスト中に現れる記号について】
《》:ルビ
(例)前方《まえ》
[#]:入力者注 主に外字の説明や、傍点の位置の指定
(数字は、JIS X 0213の面区点番号、または底本のページと行数)
(例)※[#「木+戈」、176−下−7]
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一
人影が動いた、と思ったら、すうっ[#「すうっ」に傍点]と消えた。
気のせいかな、と前方《まえ》の暗黒《やみ》を見透しながら、早耳三次が二、三歩進んだ時、橋の下で、水音が一つ寒々と響き渡った。
はっ[#「はっ」に傍点]とした三次、欄干へ倚って下を覗いた。大川の水が星を浮かべて満々と淀み、※[#「木+戈」、176−下−7]《くい》を打って白く砕けている。その黒い水面を浮きつ沈みつ、人らしい物が流れていた。
「や、跳びやがったな!」
思わず叫ぶと、大川橋を駈け抜けて、三次は、材木町の河岸《かし》に立った腰を屈めて窺う夜空の下、垂れ罩《こ》めた河靄《かわもや》のなかを対岸北条、秋山、松平の屋敷屋敷の洩灯《もれび》を受けて、真黒な物が水に押されて行くのが見える。
「この寒空に
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