町通りのなかほどにある伊助の店江戸あられ瓦屋という煎餅屋へ帰って行った時は、冬の夜の丑満《うしみつ》、大川端の闇黒《やみ》に、木枯《こがらし》が吹き荒れていた。
二
蔵前旅籠町《くらまえはたごちょう》を西福寺門前へ抜けようとする角《かど》に、万髪飾《よろずかみかざ》り商売《あきない》で亀安という老舗《しにせ》があった。
十八日の四谷の祭りには、女房お藤が親類に招かれて遊びに行くことになっていたので、以前《まえ》まえからの約束もあり、今朝伊助は、貧しい中からいくらかの鳥目をお藤に持たせて、根掛けの板子縮緬《いたこちりめん》を買いに亀安へ遣《や》ったのだった。
女房とはいえまだ子供子供したお藤。かねて欲しがっていた物が買って貰えることになったので、朝早くからひとりで噪気《はしゃ》いで、煎餅の仕上げが済むと同時に、夕暮れ近くいそいそ[#「いそいそ」に傍点]として自宅《いえ》を出て行ったが、それが小半時も経ったかと思うころ、蒼白《まっさお》な顔に歯を喰い縛って裏口から帰って来て、わっ[#「わっ」に傍点]とばかりに声を揚げて台所の板の間に泣き伏してしまった。
吃驚《びっく
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