立てられてみちゃあ、あっしも男だ。これから、これからすぐに踏ん込んで――。」
 塞《せ》かれていた水が一度にどっ[#「どっ」に傍点]と流れ出るように、伊助は吃《ども》りながら何事か言いたてようとする。貧乏世帯でも気苦労もなく普段からしごく晴々していた若女房の不意の入水、これには何か深い仔細《しさい》がなくてはかなわぬと先刻から眼惹き袖引き聴耳立てていた周囲《まわり》の一同、ここぞとばかりに犇々《ひしひし》と取り巻いてくる。
 三次、素早く伊助の言葉を折った。
「まあま、仏が第一だってことよ。地面《じべた》に放っぽりかしちゃあおけめえ。あっしが通りかかって飛ぶ所を見て、死骸だけでも揚げたというのも、これも何かの因縁だ。なあ伊助どん、話あ自宅《うち》へ帰《けえ》ってゆっくり聞くとしょう。とにかく、仇敵討《かたきう》ちってのは穏和《おだやか》じゃあねえ。次第《しでえ》によっちゃ腕貸《うでかし》しねえもんでもねえから、さあ行くべえ。死んでも女房だ、ささ、伊助どん、お前お藤さんを抱いてな――おうっ、こいつら、見世物じゃあねえんだ! さあ、退いた、どいた。」
 二人で死体を運んで、三次と伊助、材木
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